人生の最期を確信した。ある朝、彼女は──。
自分の死を迎え入れる女性の最期の1日を描く「アンティークの祝祭」。80歳を目前にした大女優ドヌーブが、故マルチェロ・マストロヤンニとの間にもうけた実娘キアラと共演しているのも話題だ。監督は「やさしい嘘」のベルトゥチェリ。
ある朝、クレール(カトリーヌ・ドヌーブ)の決意は突然だった。70年以上に及ぶ長い人生。このところ意識や記憶がおぼろげになることが増えてきた。「今日が私の最期の日」と確信した彼女は、長年かけて集めてきた仕掛け時計や肖像画など数々のコレクションをガレージセールで処分することにする。見事な品々の大安売りに、庭先はすぐに見物人であふれ出す。
大きな家財から小さな雑貨まで家中を彩ったアンティークたちは、クレールの劇的な生きざまの断片であり、記憶を鮮明に蘇らせるものだった。
一方、疎遠になっていた娘マリー(キアラ・マストロヤンニ)は、母のこの奇妙な行動を友人から聞きつけ、20年ぶりに帰ってくるが……。
本作に対する映画評論家らの意見は?(★4つで満点)
■渡辺祥子(映画評論家)
評価:★★★ なかなかGOOD!
高価なアンティークをガレージセールで売り出し、神父に悪魔祓いを頼む老マダム。死を覚悟した人間の行動と過去への罪悪感を、マダムとは長らく不仲の娘が戸惑いながら受け止める。綺麗だけど人間味には欠けている。
■大場正明(映画評論家)
評価:★★★ なかなかGOOD!
老いた収集家が思い出深い品々を手放すことは、死を覚悟するだけでなく、人生を見つめなおす機会にもなる。収集癖を持つこの女性監督は、現在と過去、現実と幻想が入り組む大胆な表現でその複雑な心理を掘り下げている。
■LiLiCo(映画コメンテーター)
評価:★★★ なかなかGOOD!
不幸な母を見たあとは心が晴れないですね。自分とダブります。そして切なくも怖くも映る骨董品の数々も悲しげ。主人公の感情もこっちに移ります。かなり上質で高級感溢れる作品ですが、そのぶんお客さんを選びますね。
■わたなべりんたろう(映画ライター)
評価:★★★ なかなかGOOD!
終活のストーリーだが、アンティークを比喩的に使っていて視覚的にも分かりやすい。実際にも親子のドヌーブとキアラ・マストロヤンニが親子を演じていて情感を伝えている。親を亡くした経験があるので実に心に響いた。
(構成/長沢明[+code])
※週刊朝日 2020年5月1日号