


AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
【写真】映画「花のあとさき ムツばあさんの歩いた道」の場面カットはこちら
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2002年からNHKで放送され好評を博したドキュメンタリーシリーズ「秩父山中 花のあとさき」が映画になった。舞台は埼玉県秩父市吉田太田部楢尾(よしだおおたぶならお)。小林ムツさん夫妻をはじめ、かつて養蚕と炭焼きでにぎわった山あいの集落で生きる人々の、18年にわたる記録だ。カメラを意識せずごく自然に生活を送るムツさん、金やモノに変えられないという農業の良さを説く新井武さん。彼らの含蓄のある言葉の数々に、おのずと人が人として生きることの意味を考えさせられる。
監督・撮影はNHKカメラマンの百崎満晴さん(51)。1999年、別番組の撮影でムツさんと出会った。以来、休日に時折村を訪ねては縁側でお茶を飲んだり、木々の説明を受けたり。彼らの無理のない生き方に引きつけられた。
「完全に、ふらりと訪ねる旅人です。当時、私自身が伴侶を亡くしたばかりということもあって、どこか癒やされたくて通っていたのかもしれません。『撮りたい』というより『また会いに行きたい』という感じでした」
01年、自身が企画したムツさん夫妻を主人公にした番組制作が決定。02年に放映された番組は反響を呼び、19年までに7本が制作された。そして昨秋、映画化が決定した。
「『いつか映画にできたらいいね』という話はしていました。当時はとても実現するとは思っていませんでしたが。ただ、もしもの時のために、大きなスクリーンで生きる広い画、太田部全景がしっかり入る季節ごとの一枚画は可能な範囲で撮りました。映画化にあたって、プロデューサーや編集マンと一緒に考えたのは、これまでテレビで使わなかった、あるいは使えなかったけれど力のある映像は何か? ということでした」
それがよく表れているのが、映画の冒頭とラストで使ったムツさんが道を去っていく長いカットだ。
「自分でもとても印象的だったのですが、何しろワンカット3分以上もあって、テレビのリズムでは生かしきれず、映画で初登場になりました」
ところで百崎監督にとって、カメラマン人生の大半を過ごした楢尾とは?