病院でもらえたのは解熱剤ぐらい。一時的によくなっても、ぶり返して悪くなる。その繰り返しでした。症状が治まらない恐怖と激しい頭痛で、息子は何度も涙を流していました」

 新型コロナは感染症法が定める指定感染症であるため、入院すれば治療費や食事は原則無料となる。しかし、自宅療養だと出費が多い。

 看病する谷本さんも、神経をすり減らす日々が続いた。まずは、同居する家族に感染することを防がなければならない。息子を独立した一つの部屋に隔離し、息子が部屋を出た時は、廊下、ドアノブ、電気のスイッチなどをすべてアルコール消毒した。トイレは、息子が使用した後は電気を消さないようにした。電気が点灯している間は「消毒が終わっていない」というサインで、他の家族が消毒前にトイレに入らないようにするためだ。

 電気が点灯している間の消毒作業は、谷本さんが一人でやる。マスクとゴム手袋をつけ、作業中は息も止めた。24時間態勢の看病のために仕事に行けなくなり、収入も減った。緊張感の続く日々で「最初の1週間は、眠ることができなかった」という。

 厚労省の自宅療養者向けのガイドラインでは、感染者の看病は<特定の人が担当する>となっている。感染のリスクを減らすためだ。しかし、日本では家事の多くを女性が担う。結果的に、谷本さんのような母親が、一人で感染者の看病をせざるをえなくなる。そのことも、谷本さんの負担を大きくした。

 保健所とは毎日のように電話で話をした。だが、病院のベッドが空いていない以上、保健所の職員は何もすることができない。

「保健所の人と電話で話していると、お互いにグチの話が多くなってくるんですよね。入院する患者の順番も県が決めているとのことで、職員さんも『県や国の方針が決まらない。対応が遅い』といった話をしていました。本当に、将来が見えない状況でした」

 前出のガイドラインでは、感染者を看病する家族は、サージカルマスクや手袋、使い捨てできるガウンなどを使用し、接触後はアルコール消毒をするよう推奨している。ところが、そういった医薬品は自治体から何一つ提供されなかった。

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