タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。
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人気タレントが政府の動きに抗議したら、腹が立ちますか? 法律なんか理解できないくせに。注目を浴びたいだけ。誰かに言われてやっているに違いない。芸能界は全てがカネと打算で動く世界で、人気タレントは頭が空っぽのお人形なのだからと。
ではそのタレントが有名大学を出ているバイリンガルだったら。賢いのかもしれないけど生意気だよねと言われそう。性別で印象は変わるでしょうか。「しっかりしている、いいぞ」「鼻につく、勘違い」。男女どちらに対してそう思うのかな。
政治的な意見表明をした芸能人がネットでたたかれるたびに思います。これは職業差別と性差別と学歴差別からなる複合的な差別だよなと。芸能人だからたたく人、女だからたたく人、低学歴だからたたく人。そのうち二つか、全部の理由でたたく人。
しかしそのタレントは、あなたに抗議しているのではないよ?と不思議に思います。意見が違うなら放っておくか、自分はそうは思わないと言えばいいのに。なぜ、口をふさごうとするんだろう。
どうやらバッシングは政治的な信条に基づいているのではなく、権威ある存在の側から世の中を眺めたい、誰かを叱ってやりたいという欲望を発散させているようです。中傷は娯楽なのですね。
寵愛(ちょうあい)と軽蔑は裏表。誰かに勝手に思い入れをして持ち上げることと、相手を自分の所有物のように扱うことは同じです。芸能人は自分を商品にしているのだから、物のように扱われても当然だという感覚の人は少なくありません。
一度カメラの前に立てば、その視線にはすぐに気づきます。世の中について意見を表明することは、芸能人の人間宣言。私たちはモノではない、あなたの妄想の産物ではないと。どんな人にも自分の頭で考えて発言する自由があると示す、勇気ある一歩です。
※AERA 2020年5月25日号