公立校で休校中のオンライン指導が進まないなか、コロナ以前からICT(情報通信技術)を駆使した授業に取り組む教師がいる。アナログの一斉授業とは違う新しい授業手法、現場で実感したその有効性とは。AERA 2020年5月25日号で掲載された記事を紹介する。
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市区町村立の公立校をリードする立場にあるのが、東京都小金井市にある市立前原小学校だ。4年前からプログラミング教育を全国に先駆けて導入し「ICT活用授業推進校」に指定されている。児童1人にパソコン1台の環境があったため、Zoom導入もスムーズに行えた。その中枢を担うのが、6年生を担任する蓑手(みのて)章吾さん(35)だ。一斉休校が始まった3月2日の夜には、子どもたちとオンラインでつながっていた。
Zoomで行う朝の会の進行は学年主任の蓑手さんが務めるが、他2学級の担任教諭2人も、それぞれの自宅からサポートする。会に訪れるのは6年生85人中三十数人ほど。双方向授業を支援するシステム「スクールタクト」は六十数人が参加する。「やろうかな」の項目にその日の目標を、「振り返り」には取り組んだ結果を書いて全員で共有。その進捗や次の予定を報告しあう。漢字ドリルを〇ページまでやるといった学習目標はもちろん、工作や料理など、「子どもが自分で決めた自己決定学習」(蓑手さん)が特色だ。
5月11日の朝の会に参加した大木彩帆(かほ)さん(12)は「コロナで会えないけど、みんなの顔が見えるだけで楽しい。朝の会がなかったら、グダグダして勉強が進まないかも」と白い歯を見せる。ほかにも児童からは「刺激を受ける」「自分がやろうとしていることをみんなが知ってるから、頑張ってやり通せる」と歓迎する声が聞かれた。
ただし、休校中のオンライン指導を他学年は採用しておらず、近隣の学校にも伝播していない。その背景には、教員や保護者からICTへの理解が得られないこと、ネット環境のない子への不平等性、学校間の横並び意識などが見え隠れする。ネット環境が脆弱であることは確かだが、それ以前に大人たちの認識がICT教育を阻む壁になっているようだ。