二人ともキリスト教徒ではないという理由で教会での式は挙げず、立食による披露宴だけを行った。純白のウェディングドレスではなく、ダークグリーンのイブニングドレスを着て。

「私は小さい頃から体形に自信がなくて。白は膨張色で一番太って見えるんですよ。当時流行っていた大きな襟とパフスリーブだけは、白にしましたけど」

 それから7年。夫は定年退職後、民間への天下りを全て断り、司法試験を受けるから大学で勉強をし直すと言いだしたという。

「驚きました。でも『大丈夫よ。私が食べさせてあげるわよ』と返事しました。彼は東大法学部に入り、2度目の司法試験で合格したんです。既に持っている肩書に頼るより、自分の力を信じて新しいことに挑戦する。私と価値観が共通してるんですよね。彼は役人で、私はファッション。別世界で生きているから、お互いの興味が尽きませんでした。同時に、大切な部分での価値観が合うということが、結婚相手を選ぶうえでとても大事だと思います」

 桂さん自身の挑戦も止まらない。今年2月のコレクションでは、300枚のバラの花びらモチーフで飾ったドレスなど新作70点を発表した。コロナ禍などどこ吹く風。来季に向けて創作意欲をかきたてている。

 走り続けるパワーの源は何か。最後にそう尋ねると、

「私はパリ留学中に、嫌というほど人種差別を味わいました。そのとき以来、どこの国からも馬鹿にされたくない。ブライダルを専門にやるのなら、どこの国にも負けないドレスを作りたい。それだけですよ。今では世界に並ぶところまで来たと自負しています」

(本誌・菊地武顕)

週刊朝日  2020年5月29日号