この日、椎木は、誕生日に尾崎からプレゼントされたシャツを着て現れた。お気に入りの一枚で、大事な仕事がある日には着ていくことが多いそうだ。とある有名音楽雑誌の表紙をMy Hair is Badが飾った際も、椎木は同じシャツを選んでいた。後輩に贈り物をする尾崎と、それを大切に着続ける椎木。これだけでも、2人の良好な関係が見てとれるだろう。

 両者の関係性はファンからも注目され、やがて、両バンドの対バンライブを望む声が大きくなっていった。2020年6月現在、クリープハイプとMy Hair is Badの対バンはまだ実現されていないが、尾崎が主催する弾き語りイベント『尾崎世界観の日 特別篇』(2016年5月5日 上野恩賜公園水上音楽堂)、『尾崎世界観の日 特別篇2019』(2019年5月18日 日比谷野外大音楽堂)やJ-WAVEで尾崎が担当していたラジオ番組『SPARK』(2017年4月17日)に椎木がゲスト出演するなど、表舞台でも両者の距離は少しずつ近づいてきた。

 そしてついに今回、オフィシャルな場で初めて2人が膝を突き合わせて話し合うことになった。しかもその場所は尾崎の地元、お花茶屋。ずっと背中を追いかけてきた椎木にとって、嬉しくないはずがない。

「でも、お話をいただいた時は『これってきっと尾崎さんの希望じゃないよね? 出版社の人が勝手に企画してぶつけてる感じだよね?』とかいろいろ勘繰ってしまったんです(笑)」

「さんざん断ってきたからね(笑)。最初は俺も、椎木を呼ぶのはちょっと申し訳ないと思ったんだよ。だって椎木、忙しいもん」

「いやいやいや! こうやって話すのはラジオに呼んでいただいて以来ですよね。あの時も『対バンしてくれるって言ったのに、全然やってくれないじゃないですか』って詰め寄っちゃいまいましたけど、ついに実現した尾崎さんとの対談なので、誰が何と言おうと、うれしいです!」

■言葉を使って人の心を掴むのは、ある意味、詐欺だとも思う

 商店街を案内する尾崎の言葉に、椎木は耳を傾ける。

「この街もだいぶ変わったけど、昔は賑わってたんだよね。このあたりには小学校低学年の頃に引っ越してきたんだよ。懐かしいな。この道を少し行ったところに、18歳から21歳まで1人暮らしをしていたアパートもあるし」

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