「僕はよくライブで即興をやるんですけど」と椎木も応える。

「あれだって、ライブをやりすぎて声が出ないし、かといって演奏力があるわけでも曲がいいわけでもないから、何かやらなきゃと思って見つけたカウンターだったんです」

「言葉」の他に2人に共通しているのは、「できない」ことから活路を見出し、自分たちのオリジナルにたどり着いたという点である。他人のようにうまく歌えないから自分の歌をつくった。メロディーだけで届かないから言葉にこだわった。それが個性になった。もし、はじめからうまく他人の真似ができていたら、2人はここにいなかったかもしれない。

■同じ目線で、対等な存在として

 アパートを後にし、再び商店街へ戻り、下校中の学生たちからの視線を感じながら歩き続ける。対談場所を探すこと数分、とあるインド料理屋を見つけた。ランチとディナーのあいだのアイドルタイムだったせいか、他に客はいない。中に入り、腰を落ち着け、ビールとカレーを注文する。

「ずっと椎木との対談を望む声があったのはわかっていたけれど、My Hair is Badがシーンに出てきて、今注目されてる後輩として対談するのは嫌だった。それはフェアじゃないから。でも、今なら話せると思ったんだよね」

「フックアップになるのが嫌だったということですか?」

「とにかく対等にしゃべりたかった。……実は、この対談連載で緊張せずにしゃべれる相手は椎木が初めてなんだよ。だから今日はうれしくて(笑)」

 尾崎にとって椎木は、かつて自分を追いかけていたファンのひとりだった。しかし尾崎は、あくまでも同じ目線で、対等の存在として椎木と接することを望んだ。

 10年の時を経て、2人はようやく同じ目線で語り合う。

 それはどのような対談になったのか? 続きは、書籍『身のある話と、歯に詰まるワタシ』にて。

(取材:山田宗太朗)