南スーダンは昨年7月、スーダンから分離・独立したが、現在、両国は戦闘状態にあり、緊張感が高まっている。フォトジャーナリスト大瀬二郎氏がレポートする。

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 南スーダン東部のジョングレイ州ルコンゴレ村。昨年末、ムルレ族が居住しているこの村一帯を、対立するロウ・ヌエル族が襲撃し、3千人近くの死者を出し、今もおよそ6万人が避難を強いられている。今回の襲撃は、昨年8月に600人の死者を出したムルレ族による襲撃への報復とみられている。南スーダンは昨年7月、スーダンから分離・独立したばかり。今年1月からは日本の陸上自衛隊もPKOで首都ジュバに派遣されている。そのジュバから約300キロ離れた場所で、独立後最悪の民族衝突が起きている。

 衝突の火種は、家畜窃盗だ。牛の牧畜は南スーダンの社会経済活動の中心で、対立関係にある民族間では、家畜窃盗は生活の一側面として久しく看過されてきた。しかし長年続いた内戦が、大量の武器の流入や、和平を保つ伝統的な調停システムの崩壊を招いた。そこで起きた家畜窃盗が、大量の犠牲を生む紛争にエスカレートした。

 独立を前に、南スーダンの人々は、民族間に存在してきた葛藤(かっとう)を差し置いて団結した。しかし、この国民結束は長く続かなかった。国を内部から引き裂く亀裂は、南北間の和平合意の履行、独立を圧倒的に支持した住民投票、北部との石油収入の分割交渉といったマクロの問題に隠れていただけだった。

 ムルレ族の犠牲者のものとみられる頭蓋骨(ずがいこつ)が、ルコンゴレ村のPKO部隊の基地から200メートルのところに転がっていた。ある村人によれば、ロウ・ヌエル族の襲撃から逃げ損ねた老人が、PKO基地への入場を拒否され、襲撃者によって小屋に蹴(け)りこまれた。その後、小屋に火が放たれ、老人は焼死したという。AK-47型自動小銃で武装した8千人のロウ・ヌエル族を目前に、PKO部隊はなすすべがなかったことになる。世界最新の国の自己崩壊を防ぐためには、軍勢が不可欠な地域にブルーヘルメットを集中させるべきではないか。焼け野原と化した村を眺めながら考えた。

※週刊朝日 2012年4月13日号