17年6月、刑法の性犯罪規定は110年ぶりの大幅改正となった。法務省が設置した「性犯罪の罰則に関する検討会」は、「強姦罪」を「強制性交等罪」、「準強姦罪」を「準強制性交等罪」に改称し、法定刑の下限を引き上げることなどを内容とする報告書を取りまとめ、改正が実現した。だが、「暴行・脅迫」と「抗拒不能」の要件については、撤廃・緩和が検討されたが、「不同意の立証が難しくなる」として見送られた。
同検討会のメンバーの一人でもあった前出の角田弁護士によると、「暴行・脅迫の要件を廃止か緩和すべき」と声を上げたが委員の大半が賛成せず、「抗拒不能」については十分に検討もされなかったという。
「一番の問題は、検討会のメンバーのほとんどが性被害の実態を知らないこと。恐らく性暴力被害者に会ったことも、積極的に声を聞いたこともないと思います。その結果、性暴力被害に遭っても逃げられると考える。すべて加害者側の経験則です」
前出の裁判の2審での有罪判決は、実の娘に対する性的暴行というあまりに卑劣な犯行が、倫理面から見て「無罪」になるのはいくら何でもおかしいという社会的な批判も受け、常識的な判断がされたのではないかと見る。角田弁護士は言う。
「性暴力加害者が無罪になる事件は、今も続いています」
(編集部・野村昌二)
※AERA 2020年6月1日号より抜粋