「魂の殺人」と言われる性暴力。だが現行刑法では、罪の成立には「暴行・脅迫」や「抗拒不能」が要件となる。3月、刑法を見直す議論をするための検討会が立ち上がった。性被害者の視点に立った法整備は進むのか。AERA 2020年6月1日号では、日本の性犯罪をめぐる刑法の現状を取材した。
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同意のない性交はすべて犯罪だと法で定めることができるか──。性犯罪を巡る刑法改正は「今年」が焦点になる。2017年に刑法改正が行われたが、課題が残されているとして、「3年後」に見直しされることになった。今年がその年に当たる。
3月には、性犯罪に関して理不尽極まりない判決が覆った。
当時19歳だった実の娘に性的暴行をしたとして、準強制性交等罪に問われた父親(50)の控訴審判決。3月12日、名古屋高裁は1審の無罪判決を破棄し、懲役10年を言い渡したのだ。
判決の後、被害者女性は弁護士を通じてコメントを出した。
「やっと少しホッとできるような気持ちです」
父親はその後、判決を不服として最高裁に上告したが、1審・2審で争点となったのが「抗拒不能」。抵抗が著しく困難な状態を指す法律用語だ。
日本の現行刑法では、意に反する、もしくは同意のない性行為だけでは罰せられない。「暴行・脅迫」を用いたら強制性交等罪、そして「抗拒不能」の状態であった場合に準強制性交等罪が成立する。
1審では、娘の同意がなかったことは認められたが、抗拒不能の状態だったと認定するには合理的な疑いが残るとして、父親は無罪となった。衝撃を受けた人々によって、性暴力の根絶を目指す「フラワーデモ」のうねりが起きた。一方で2審は、「抵抗する意思を奪われ、抗拒不能状態であったことは優に推認される」と逆の結論を導いた。
「魂の殺人」と言われる性暴力で、被害者が感じた恐怖、衝撃は言葉では尽くせない。
先の女性は被害に遭っていた時のことを、
「とても怖くてじっとたえ続けるしかありませんでした」
と振り返っている。