九州歯科大学准教授で歯周病学が専門の臼井通彦さんは、こう説明する。
「つまり、歯周病予防がさまざまな病気の予防につながります。歯周病患者は生涯歯周病患者、という言葉があります。状態が安定しても、隠れたリスクを過小評価せず、常に歯周病対策をすること。糖尿病患者と同じで、罹患(りかん)したら一生心がけることが大事なのです」
臼井さんによると、歯や歯茎を見て「歯周病かも」と気づいたときは手遅れだという。歯の異常を感じる手前での治療がいい。
「可能であれば季節に1回、歯科医の検診を受けましょう」
インプラントの人も気をつけるべきことがある。
「人工歯根であっても周囲に炎症が起きる『インプラント周囲炎』が起きてしまう。これはセルフプラークコントロール(自身のブラッシングで細菌の増殖を抑えること)が難しいので、歯科で診てもらうしかない。インプラントは入れて終わりではないのです」
近年注目されているのが、25年には65歳以上の5人に1人が発症するといわれる認知症への予防効果だ。
認知症は、「アルツハイマー型」「脳血管性」「レビー小体型」「前頭側頭型」などが主なタイプである。認知症の原因は解明されていないが、歯周病を防げば、特に脳血管性の認知症をある程度予防できるという。
「脳血管性の認知症の主な原因はメタボですから、メタボの予防をすれば、脳血管性の認知症の発症をある程度抑止できると言われています」(前出の平野さん)
脳卒中、心臓病、糖尿病といった生活習慣病を引き起こす原因の一つが歯周病。その予防が認知症の予防にもつながるというわけだ。
また、歯と認知症の関連を示すデータもある。神奈川歯科大学大学院歯学研究科教授の山本龍生さんが12年に発表した調査結果で、歯がほとんどない上に義歯を使用していない人は、自分の歯が20本以上ある人に比べて、認知症を発症するリスクが1.85倍高いというものだ。一方で、歯がほとんどなくても義歯を使えば、リスクは1.09倍にとどまる。