山梨県警の怪とも呼べることが起きている。行政委員の職に選任された会社社長から計300万円分の仕立券を受け取った―山梨県警や地元メディアの関係者は口をそろえて断定する。だが、名指しされた県知事にはおとがめがなく、疑惑を捜査した県警幹部は7年前の不貞を理由に重たい懲戒処分を食らわされた。
元建設官僚の横内正明知事(70)が衆議院議員3期を経て知事に初当選したのは、2007年1月のこと。4年後の昨年1月に再選。今は2期目を務めている。
横内知事と葬儀会社社長Xについて、捜査関係者が明かす。
「知事就任から計6回、いずれも50万円の紳士服仕立券を贈ったことが確認できた。Xは桐箱入りの仕立券をいくつも購入していた。横内知事は仕立券を使用する際、名前は実名を記し、職業欄に『医師』と記載していた。仕立券には通し番号や使用時のID確認があるため、使用者がわかる仕組みになっていて、店の人には素性がばれ、顧客名簿の職業欄にはカッコ書きで『知事』と書かれていたそうです(笑)」
だが、捜査は結実していない。県警関係者が言う。
「当初は仕立券と一緒に現金も贈られたとの情報で捜査を始めたが、現金については葬儀業者の地元信金の口座から引き出された形跡がうかがえただけで、知事へのカネの流れは掴めなかった。現場から『仕立券も換金できるから贈収賄が成り立つ』との意見は出たが、警察庁も地検も現金の授受を突き止めないと事件を立件しない、との判断だった」
政治とカネの問題に詳しい日本大学法学部の岩井奉信教授が解説する。
「金券でも贈収賄は成り立つが、個人間の場合は"請託"の立証が難しく、罪に問うハードルが高い。とはいえ盆・暮れに何度も50万円を受け取ることは、仕立券であっても社会通念から大きく外れている。政治家としては明らかに道義的、倫理的な問題があります」
※週刊朝日 2012年4月13日号