黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する (写真=朝日新聞社)
黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する (写真=朝日新聞社)
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※写真はイメージです (GettyImage)
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 ギャンブル好きで知られる直木賞作家・黒川博行氏の連載『出たとこ勝負』。今回は賭け麻雀で辞めた黒川弘務・前東京高検検事長について。

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 黒川ヒロムキさん……いや、黒川ヒロムさんが賭け麻雀で辞職した。というより、法務官僚として数々の疑惑に蓋(ふた)をしてきた危ない人物が、いままで居すわってきたことがおかしい。麻雀がどうこうというより、国民を愚弄(ぐろう)し、国会を混乱させた当事者として、もっと早くに辞表を出しているべきだったろうが、そういうやつにかぎって図太い。だから平気で賭け麻雀をする。この三密自粛の時節に。

 麻雀のレートは“点ピン”(千点が百円)だったというが、五十年以上の雀歴を誇るわたしには信じられない。こんな子供レートの麻雀を大の男(しかも超高給とりの全国紙新聞記者と検察ナンバーツー)がするか。仮に“点ピン”を信じたとしても、それはあくまでも素点であり、ほかに必ず“サシウマ”という順位点がつく。通常のウマは“一・三”で、点ピンなら一位が三千円、二位が千円をもらい、三位が千円、四位が三千円を払う。あと、裏ドラとか一発和了をするとチップがもらえて、これは五百円か千円。はじめに二万五千点の持ち点があり、終わったときは三万点を基準に計算するのが普通だが、それでハコ割り(点棒がなくなってパンク)すると、三十五点くらいのマイナスだろうか。しつこいが点ピンのマイナス三十五点は三千五百円で、そこにウマの三千円が追加される。チップも三枚や四枚は減っているだろうから、半荘戦一回につき、八千円ほどやられる。午後八時ごろから午前二時まで六時間のゲームをすると、半荘戦八回はするから、勝ったり負けたりで二、三万円のやりとりになるだろうか。

 しかしながら週刊文春の記事を読むと、ある記者が「今日は十万円もやられちゃいました」とハイヤー運転手に語ったというから、点ピンは信じられないし、ウマももっと大きいのだろう。黒川ヒロムさんは麻雀が巧かったらしいが、記者は「ある程度負けてあげないといけないんだ」とぼやいていたらしい。それはそうだろう、いくら新聞記者でも接待の相手に勝って金はもらえないし、麻雀が終わればハイヤーで自宅まで送って行く。上げ膳据え膳の麻雀が羨(うらや)ましい。

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