1967年に発売された温水洗浄便座の国産第1号「サニタリイナ61」 (c)朝日新聞社
1967年に発売された温水洗浄便座の国産第1号「サニタリイナ61」 (c)朝日新聞社
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 新型コロナウイルスの影響は、米国人のお尻にも及んでいるようだ。スーパーなど小売店でトイレットペーパーが品不足になったことをきっかけに、洗浄便座への注目度が高まっている。

「トイレットペーパーが見つからないの? ビデ(洗浄装置)を使ったら」

 SNSでは、コロナの感染拡大でトイレットペーパーを買い占める動きが広がると、こうした投稿が目立った。

 米紙ロサンゼルス・タイムズも、買い占めが頻発していた3月、「温水洗浄便座の売り上げが急増」などと報じた。記事では既存の便座に付けたり持ち運びができたりする、1万円前後の洗浄装置を開発・販売する米トゥッシー社の経営者の言葉を紹介した。

「(コロナは)米国人にとって転換点。一度使えば、トイレットペーパーでお尻を拭くような行為には戻れないだろう」

 同社の売り上げは、コロナ禍の前に比べて10倍に伸びたという。

 日本のメーカーも好調だ。TOTOは1~3月に米国を含めた北米の売り上げが、前年同期に比べて2倍になった。「2019年度はもともと好調で、コロナがどれだけ影響したのか調査中です」(広報担当者)。リクシルも3月の米国での売り上げは、前年同期に比べて倍増した。同社はホームページを通じたキャンペーンも販売増につながったとみている。

 温水洗浄便座の開発はもともと、欧米が先行した。痔(じ)の患者ら医療向けでは使われていたが、一般家庭への普及は特に米国で進まなかった。「各社とも販売に力を入れていたが、文化や習慣、心理的な壁が大きいようです」(国内メーカー関係者)

 日本の一般家庭への普及率は8割を超える。トイレ関連の業界団体、日本レストルーム工業会によると、TOTOやリクシルが国内で取り扱い始めた当初は、米国やスイスから輸入していた。1960年代後半に国産化に取り組み、TOTOの「おしりだって洗ってほしい」と呼びかけるテレビCMなどを通じて80年代以降に定着していった。今では訪日外国人の買い物の対象になったり、海外の高級ホテルで使用されたりするほどになっている。

 米国の人気歌手、マドンナが2005年に来日した時には「(TOTOの)ウォシュレットに会いに来た」と発言。映画俳優のレオナルド・ディカプリオが自宅用にウォシュレットを購入したことも話題になった。米国でもコロナ後の「新しい生活様式」が広がりそうだ。(本誌・池田正史)

週刊朝日  2020年6月12日号