さらに腫瘍内科医やがん化学療法看護認定看護師、がん薬物療法認定薬剤師など、がん薬物療法の専門知識を持つ医療者の役割が注目されている。
「手術は外科医、放射線治療は放射線科医、薬物療法は腫瘍内科医というように、それぞれの専門家が知識と技術を持ち寄りチームとして最善の医療をおこなうのが理想でしょう。実際多くの先進国で腫瘍内科医が薬物療法を担当していますが、日本は腫瘍内科医が不足していることもあり、多くの病院で腫瘍内科医以外の医師が担当しているのが実情です」(鶴谷医師)
5大がんをはじめ多くのがん種は標準治療が確立しているため、腫瘍内科医がかかわらなくてもある程度治療の均てん化は図れている。「しかし、まれながんになった場合や、再発などで治療が薬物療法中心になった場合、新薬による治療を受けたい場合などには、腫瘍内科医の役割はさらに重要になる」と鶴谷医師。
「腫瘍内科医は薬物療法全般の知識に加えて、乳がんや消化器がんなど専門領域を持っています。自分のがんに合う領域の医師を選べば、より適切なアドバイスを受けることができます」
■高齢者の薬物療法 学会が指針
高齢社会の日本ではがん患者も高齢化し、患者に占める60歳以上の高齢者の割合は8割を超えている。高齢のがん患者に、副作用が強く出やすい薬物を若い人と同じように投与していいものか──。戸田中央総合病院の相羽惠介医師は「現場の多くの医師が悩んできました」と話す。
「高齢者の特徴は、身体機能や認知機能の個人差が大きいこと、そして何かストレスがかかったときに対応する『予備能力』にも個人差があり、一気に崩れてしまう人もいること。ストレスの最たるものが、がんの薬物療法です。また、抗がん剤が承認されるための臨床試験に参加する患者は、せいぜい65歳まで。高齢者に投与してどのような影響が出るのか、十分確認されないまま世に出ているのです」
高齢者に投与する際の目安がない中で、医師は経験則で減量するなどして対応してきた。根治を目指せる場合は通常量を投与するのが原則だが、副作用で命を落としてしまったら、という怖さもある。こうした現場の迷いを受けて、19年に診療の一助となる二つの知見が発表された。