原発事故から1年。議論すべきことが山積みのはずの福島県双葉町の3月議会で白熱したのは、意外なことに避難所の「お弁当」を巡るやりとりだった。
「(旧騎西(きさい)高校で避難中の町民向けに)弁当はいま何個、頼んでいるのか」
3月13日、避難先の埼玉県加須市で開かれた議会中、こんな質問が井戸川克隆町長にぶつけられた。
「300(個)程度です」
という町側の説明に、質問した菅野博紀町議は「正確な数字を出してください」と納得しない。結局、議事は中断した揚げ句、
「朝が260、昼が190、夜が300」「朝と昼は学校に通う生徒や働いている方がいるので、少なくなっている」
などと具体的な説明が、ようやく町からあった。
それにしても、なぜ弁当の数が問題になるのか。
町の説明では、旧騎西高で避難生活を送る双葉町民は、3月11日現在で398人。だが複数の町議は、これは「水増し」された数字ではないかと疑う。やはりこの問題を議会で取り上げた岩本久人町議が言う。
「実際に旧騎西高校に行くと、とても400人近くが暮らしている感じがしないんです。税金で支援を受けている以上、町が避難者の正確な数を把握できていないとしたら問題です」
震災前に約7千人いた双葉町民のうち、当初は千人以上が加須へ移った。だが仮設住宅の整備などが進み、福島へ戻る人も相次いだことから、旧騎西高で避難生活を続ける町民は減り続けている。
このため、岩本町議はこんな疑問まで口にする。
「実態が知れると役場を埼玉に置き続ける理由がなくなる。それで町長は正確な数字を言いたくないのでは」
一方、町側ではこのように釈明する。
「申告せずに避難所を去る町民もいて把握が難しい。正確な数字は、追ってお知らせするつもりです」
町議らは役場機能を福島へ戻すよう再三求め、佐藤雄平・福島県知事も「県内に戻って復旧、復興にあたっていただきたい」と明言している。だが事故直後、自ら埼玉への避難を決断した井戸川町長は原子炉が安定しないなどの理由から、「戻る」と明言しない。このため町議らは議会最終日の19日、福島へ役場を戻すよう求める決議案を全会一致で可決した。
被災者不在のこの対立、いったい何やってんだか。
※週刊朝日 2012年3月30日号