■認知症の進行にブレーキをかけられる

 しかし、これまでもこの病気には治療薬が存在した。従来の薬とどう違うのだろう。順天堂大学医学部前教授で、現在はアルツクリニック東京院長の精神科医、新井平伊医師が解説する。

「従来使われていた薬は4種類。ドネペジル(商品名「アリセプト」)、ガランタミン(同「レミニール」)、リバスチグミン(同「イクセロンパッチ」「リバスタッチパッチ」)、そしてメマンチン(同「メマリー」)です。脳内にはアセチルコリンという“記憶”に関係する脳内ホルモンがあり、アルツハイマー型認知症が進むと、細胞機能の低下によりこのホルモンが減少していく。これら前3者の既存薬は、減少していくアセチルコリンを補充する働き、メマンチンはグルタミン酸関連の細胞障害防止の働きを持っています。一方、新薬のアデュカヌマブは、脳に蓄積されていくアミロイドβタンパクに取り付く抗体の働きで、アミロイドβを減らす作用を持っている。病気を川に例えるなら、従来の薬は“河口近く”に作用するのに対して、アデュカヌマブは“上流”に作用する。従来の薬が“対症療法”なら、新薬は“根治療法”と言えるでしょう」

 アルツハイマー型認知症の病期分類は、以前は「健常者」と「認知症」の二分法だったが、現在は「健常者」「MCI(軽度認知障害)」「認知症」の3段階。最初にアミロイドβの蓄積が始まり、次に神経細胞の機能低下、続いてタウタンパクの蓄積が進み、そのあとで脳萎縮、認知障害が続く。近年ではMCIのさらに前段階として「SCD(主観的な認知機能の低下)」と呼ばれる段階を加えた4段階評価をすることもある。

 既存薬はこのうち最後の段階である「認知機能の低下」が始まってからの使用が基本。これにより病気の進行を一時的に遅らせることはできても、その後は自然経過と同様の進行を示していく。つまり、効果は一時的なものであり、“改善”や“進行の抑制”を期待するものではなかったのだ。

 これに対してアデュカヌマブは、認知症になってから使用しても一定の進行抑制作用が期待されるだけでなく、MCIやSCDなど、“より健常者に近い状態”から使用することで、病気の進行にブレーキをかけることができるという。

「SCDの段階で新薬を使い始めれば、生涯にわたって認知症にならずに済む可能性も出てきた。きわめて画期的なこと」(新井医師)

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アデュカヌマブにも懸念されることが