──政治家としての大きな章を終え、自分の人生を楽しむ時間ができましたか?
それはよくされる質問だわ(笑)。私生活はとてもうまくいっている。家族、夫や娘や孫とともに過ごす時間はとても充実している。至福の瞬間だわ。でもアメリカ国民として、世界の一員として、非常にがっかりしている。分裂気味の生活でもある。時間をかけて散歩することもあるし、映画を見たり孫と一緒の時間を過ごしたり。それに代わるものはない。しかし毎朝起きれば世界は変わっていない、目の前にある現実を見れば、私たちは大きな間違いを犯しているのだと感じる。その結果が私の孫たちの将来に降りかかってくると……。この気持ち、わかってもらえますか?
──ドキュメンタリー「ヒラリー」が完成し、ベルリン国際映画祭に参加。今回ドキュメンタリー制作を承諾したのはなぜですか? 時には触れたくない心痛む点にも触れるわけですが。
私は公の場に長い間身を置いてきましたが、これまで全く見当はずれの間違った事実がまかり通っていて、それをいつかは明確にしたいと思っていました。人に好かれる好かれないという問題は別にして、少なくとも私が一体だれなのか、真実を語る必要があるのではと感じました。自分はずっと同じ人間でしたし、大学時代から16年の選挙までをドキュメンタリーでなぞることでそれが明確になるのではと思いました。今回は選挙運動をやるわけではないので、今こそ本当の自分を語る機会ではないかと。多くの人が私を理解してくれるのではないかと。またこれまでの誤解がいかに生まれたかを解明する機会ではないかと思ったのです。
(取材・文/高野裕子)
※週刊朝日 2020年6月26日号