津波被害がいまだに生々しく残る福島県南相馬市。震災以前は、極上のサーフスポットがあり、サーフィンの世界大会を誘致するなど、市の地域活性化に取り組んできた。自身もサーフィンを趣味に持つ奥山英樹・福島大学経済経営学類准教授は「そうした海に関わる人間だからこそ見えた事実がある」という。

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 高台から町を見渡すと、鳥居が見えて神社が無事なのが確認できました。地図上で神社に○をつけると、ちょうどその下まで津波が及んでいたことがわかりました。つまり神社が目印となり、「自然のハザードマップ」になっていたのです。また福島第一原発のすぐ下の海は、かねて絶好のサーフスポットでした。ただサーフィンに適した場所というのは、「波の立つ」場所です。そこに原発を建てたことがそもそもの誤りだったのかもしれません。

 震災でわかったのは、古の人々の知恵や経験が、どこかで断絶していたことです。原因は、戦後の高度経済成長にあると考えています。地方交付税による公共事業で、地方都市が同じようなつくりの「ミニ東京」になりました。本来なら地方都市の「顔」は様々でいい。南相馬市のような海辺の町は、海辺の「顔」をしているべきなのです。

 今、社団法人ビーチクラブ全国ネットワークの方々を中心に、東京海洋大や日大の先生方、さらに漁業関係者や釣り人、サーファーなど海に関わる多くの人々を交えて「海岸学」という学問を作ろうと動いています。過去に日本人が海岸とどう向き合い、どんな住居で、どんな文化を育んできたのか。それをまとめ、伝え、海岸に住む人たちで共有することが大切です。

 それは単なるノスタルジーではなく、未来に向けた懐古主義です。島国に住む日本人のライフスタイルをもう一度問い直し、福島の海岸線をもう一度、楽しい場所、気持ちのいい場所として復活させたいと思います。

※週刊朝日 2012年3月16日号

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