ギャンブル好きで知られる直木賞作家・黒川博行氏の連載『出たとこ勝負』。今回は、ウェブ会議について。
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某日──、コロナ禍で延期されていた某文学賞の選考がウェブ会議で開催された。選考委員は五人。わたしだけがカメラつきのパソコンを持っていないため、中之島のホテルの会議室へ車で行き、編集者がセットしてくれたノートパソコンの前に座って、あれこれ喋った。ウェブ会議は初めてだったが、声が少し聞き取りにくいといったほかには大した支障はなかった。
選考対象の四作に対する評価は拮抗(きっこう)していたが、最終的に一次投票で点数の多かった作品が受賞した。わたしはその作品を推さなかったが、他の委員の意見には首肯できるところが多く、愉しい選考会だった。
わたしのほかの四人は自宅からの参加だったので、リラックスしているように見えた。ひとりが煙草を吸っていたのがずいぶん旨(うま)そうで、わたしもパイプ煙草を吸いたいと思った。
家に帰るなり、カメラつきパソコンを四台も所有しているよめはんにいった。おれもテレビ会議のひとになりたい──と。
「あ、そう……。それで」よめはん、警戒する。
「であるからして、ハニャコちゃんがパソコンを会議ができるように設定してやな、おれに貸してくれたらええんや」
「ピヨコはええかもしれんけど、ハニャコちゃんはめんどいやんか」
ピヨコ──呼び捨て。ハニャコ──ちゃん付け。違和感あり。
「パソコンを買うたらセットアップしてくれるやろけど、もったいないがな」
「三万円」「なんやて……」「パソコン使用料。一回につき三万円」「暴利やぞ、それは」「ただでさえ電話が嫌いやのに、なんでそんなに他人とつながりたいわけ?」「いや、その、煙草が旨そうやったんや」「わけの分からんこといいなや」「一万円にディスカウントしてください」「最初は三万円。次からは一万五千円でいいわ」「承知しました」「で、いつするの。テレビ会議」「来年のいまごろかな。たぶん」「来年ね。鬼が笑うわ」よめはんに笑われた。