指導した北島康介選手、萩野公介選手が、計五つの五輪金メダルを獲得している平井伯昌・競泳日本代表ヘッドコーチ。連載「金メダルへのコーチング」で選手を好成績へ導く、練習の裏側を明かす。第26回は、6月に小さな大会を開催した狙いについて。
【写真】本番の試合に挑むような「想像力」も試された「我らが板橋」
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毎年6月に地中海沿いの複数の都市で相次いで実施される欧州グランプリ「Mare Nostrum」(我らが海)。それを模して東京都板橋区の東洋大で「Itabashi Nostrum」(我らが板橋)を開くことを前々回に書きました。コロナ禍で練習が十分にできていない選手もいて心配もありましたが、試合を重ねるごとに集中力が高まって、実りの大きい大会になりました。
私が指導する社会人と東洋大の少人数の選手が参加して、6月11日から21日にかけてバルセロナ大会とカネ大会(各2日間)、セッテコリ大会(3日間)を行いました。コロナ禍で大会が中止になる中、レース感覚を取り戻すために開いた記録会ですが、午前に予選、午後に決勝を行う日程を欧州グランプリとそっくり同じにして、大会の雰囲気を盛り上げました。
1試合目のバルセロナ大会は泳ぎが重かった。疲労度も高そうだったので、やらないほうがよかったかな、と思うほどでした。2試合目のカネ大会は調子を上げる選手と落とす選手に分かれました。練習を再開して間もない学生も何人か合流したのですが、ぎこちない泳ぎで、ゴールしたらへろへろになっていました。
3試合目のセッテコリ大会では集中力がかなり高くなって、まあまあの記録で泳いでいました。学生の選手たちも動きが少しずつつながり、明らかに泳ぎがよくなっていきました。
ここで大切なのは記録ではなく、レースの刺激が練習にどう表れるかです。
みんな「久しぶりできつかったー」と言いながら、表情は明るい。学生に聞いても「レースの後は動きがよくなった」と答えます。これを狙っていました。