102試合目(8月24日の日本ハム戦)の時点で3割9分台をキープしていたイチローだけに、夏場のケガさえなければ、4割到達は微妙でも、秋口の猛チャージでバースの記録を更新し、NPB史上初の“3割9分打者”が誕生していた可能性は十分にあった。
イチローは94年にも開幕から60試合目、6月29日の近鉄戦の2打席目に瞬間風速的に4割に到達する(5打席目に凡退して3割9分8厘に下降)など、シーズン打率3割8分5厘を記録。こちらも歴代3位のハイアベレージだ。
そして、開幕から最も長期にわたって4割台をキープしたのが、89年のウォーレン・クロマティ(巨人)の96試合だ。
来日6年目、元号も昭和から平成に変わったこの年、4月8日の開幕戦(ヤクルト戦)で4打数3安打と好スタートのクロマティは、5月18日の中日戦でも4打数3安打の大当たりで、開幕30試合目で4割7分という驚異的な高打率をマーク。夢のシーズン4割も現実味を帯びてきた。
その後も「ホームランを打ってもヒットを打っても打率は変わらない」とミート中心の打撃に徹し、6月24日まで4割台をキープ。7月以降は3割8分~9分台とやや下げたが、8月9日の広島戦で4割復帰をはたすと、開幕から90試合目、同12日の中日戦は4打数2安打の4割1厘で、64年に広瀬叔功がマークした89試合を更新。そして、同20日の阪神戦の96試合まで自身の記録を塗り替えた。
ちょうどこの日で規定打席に達し、打率4割1厘のクロマティは、残り試合を休めば、NPB史上初の4割打者になっていたが、チームが優勝目指して戦っている最中に主砲がリタイアするわけにいかない。結局、4割は夢と消え、バースの最高打率も下回ってしまったものの、3割7分8厘で首位打者獲得。チームの2年ぶりVに大きく貢献し、MVPにも選ばれた。
前年オフ、ロックバンド「クライム」のドラマーとしてミュージシャンデビューをはたしたクロマティは、このまま引退するつもりだったが、夫人との離婚問題で莫大な慰謝料が必要となり、「もう1年野球で稼ぐしかない」と急きょ現役続行。そんな“オマケの1年”で大ブレイクするのだから、人間の運命は本当にわからない。