しかしその際は、自宅に浸水や倒壊などのリスクがないか、ハザードマップでしっかりと確認しておくことが大切だと言い、こう続ける。

「家具を固定するなど対策も忘れてはいけません。どこに避難するかは、災害が起きて急に考えてもできないので、家族がいる人は普段から、家族で逃げ方や逃げる場所を話しあっておくことが重要です」

 また、避難所での生活を想定した備品も、従来よりもきめ細かに考えなくてはならない。松尾さんが提唱する「避難に備えて非常持ち出し袋に入れたい新型コロナウイルス対策備品」では、水や食料などは1週間程度の備蓄が必要とした上で、コロナ禍ならではの備品として、衛生用品などの必要性を説く。

「マスクやアルコール消毒液といった衛生用品は、わが身と家族を守る行動につながるので用意してほしい。上履きやスリッパは、床からの接触感染を防ぐために必要。使い捨てのビニール手袋は、ドアノブなど多くの人が触れるものからの接触感染を防ぐことができます。使い捨てのビニールエプロンやゴミ袋も、避難所の運営協力に役に立ちます」

■過去の被災を教訓に

 いち早く避難所運営を迫られた佐世保市も、松尾さんの提唱する分散避難の呼びかけの徹底が奏功して「密」なスペースを避けることができたといえる。また、近年の水害の爪痕がまだ生々しい被災地では、対策も徹底している。

 昨年10月の台風19号で関連死も含め12人が犠牲となった福島県いわき市は、災害発生初動時に開設可能な避難所を45カ所から80カ所に拡大し、マスクなどコロナ対策の備品は5月補正予算に計上して購入を進め、避難所で使用するパーティションも備蓄を増やしていく方針だ。

「80カ所の避難所は学校や体育館、集会所など公的施設で、今回はこれに加えてホテルや旅館の利用についても検討しており、業者の方々と調整している段階です。避難所の開設にあたっては何が正解かわからない状態なので、試行錯誤を繰り返していくしかないですね」(いわき市危機管理課)

 一昨年夏の西日本豪雨など毎年のように水害に悩まされている広島市も、手探りをしながらコロナ禍の避難所対策を進めている。ハード面では非接触型体温計400本を購入、避難所内でのプライバシー確保と感染対策として4~5人用のテント848張も購入した。避難所に関しては、約140カ所の既存施設を最大限活用していくという。

「学校だったら体育館だけを避難所として開けていたものを、教室にも拡大するなどしてなるべく密な空間にならないようにしたい。発熱者や体調の優れない人にも別室の専用スペースを設ける予定です。区役所を中心に、手順の説明会を行ってビデオを撮り情報共有を心がけていますが、訓練のために大勢を集めて密な空間を作るわけにもいかないので難しいですね」(広島市危機管理室)

(編集部・大平誠、野村昌二)

AERA 2020年7月13日号より抜粋

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