787系は「水戸岡鋭治」の名がクローズアップされるきっかけとなったほか、ライティングコンテスト最優秀賞、照明普及賞、鉄道友の会ブルーリボン賞をそれぞれ受賞するなど、高い評価を得た。
その後、普通列車向けの813系近郊形電車、キハ125形一般形気動車などが登場し、JR九州の鉄道車両にはSHOW的な要素が加わったといっても過言ではない。
■車内の素材に木材を使用
これまで水戸岡デザインの車両は近未来な雰囲気を感じさせていたが、1999年に登場した特急「ゆふいんの森」用のキハ72系では床をフローリングにするなど、インテリアに木材を多用した。かといって、和風という感じのない和洋欧がうまく融合し、オンリーワン車両に仕上がった。
2000年に特急「かもめ」で登場した885系特急形電車は、フローリングのほか、座席のテーブル、コモンスペースと称するデッキの壁などにも木材を使用した。極めつけは全座席を革張りにしたことで、水戸岡氏曰く“社長室の椅子の大衆化”(『水戸岡鋭治の「正しい」鉄道デザイン』/交通新聞社刊より)を具現化したのだ(この前に登場した特急「ソニックにちりん」(現・ソニック)用の883系特急形電車はグリーン車のみ革張り)。
2003年に登場した九州新幹線初代車両の800系は、九州の和の素材をふんだんに使い、座席や客室内の妻壁(客室とデッキ、もしくは乗務員室の仕切り)、側窓のカーテンに木材を多用したほか、洗面所にイグサの縄のれんを使うなど、僭越ながら私としては、“水戸岡デザイン車両の最高傑作”と声を大にしたい。後の増備車では一部車両の妻壁に金箔、革張りの座席を採用するなどにより、800系のブランド価値をさらに上げた。歴代の新幹線電車は唯一、本州に顔を出さないのが惜しいほどだ。
2013年には、JR東日本E26系の寝台特急「カシオペア」以来、14年ぶりの客車寝台車となった77系「ななつ星 in 九州」が登場。“当選者”しか乗車できないクルーズトレインの先駆者となった。木材をふんだんに用いた究極の寝台車が大好評を博している。