この記事の写真をすべて見る
取り外しが自由にできる入れ歯。「管理が楽で衛生的」と思っている人は多いのではないでしょうか。しかし、清掃が不十分なままの入れ歯には細菌が大量に付着していて、口に入れると歯周病の温床になる危険があります。詳しいお話を『なぜ歯科の治療は1回では終わらないのか? 聞くに聞けない歯医者のギモン40』が好評発売中の歯周病専門医、若林健史歯科医師にうかがいました。
* * *
進行した歯周病で歯を失った人は入れ歯やインプラントで歯を補わなければなりません。近年はインプラントが人気ですが、天然の歯よりもプラーク(細菌の塊)が付着しやすいこと、歯みがきなどの清掃が難しいこと、細菌が繁殖するとインプラントの歯周病である「インプラント周囲炎」を発症しやすいことなどがわかっています。こうした結果、せっかく入れたインプラントがダメになってしまうことがあり、歯周病の専門医は取り外し可能な入れ歯を推奨することが多いです。
とはいえ、入れ歯も注意しないと歯周病菌の温床になってしまうことは知っておく必要があります。なぜなら入れ歯にもプラークは容易に付着するからです。
中でも歯ぐきの部分にあたる「床(しょう)」(ピンク色の部分)やクラスプ(部分入れ歯で隣の歯にひっかける金属)につきやすいことがわかっています(ちなみにクラスプを使わないノンクラスプデンチャーというタイプがありますが、材質的に長持ちしないこと、入れ歯の設計によっては安定性が十分ではなく、健康な隣の歯に悪影響をおよぼすこともあることなどから、歯周病の人には推奨しない歯科医師もいます)。
これを知らないとやっかいなことになります。
歯を失った患者さんは「これ以上、歯がなくならないように」と入れ歯になった後、がんばって残った歯を磨いてくれます。ところが肝心の入れ歯のほうはというと、清掃が行き届いていない人が意外と多いのです。
このため、入れ歯の細菌が口の中にうつり、せっかくきれいになった天然の歯が歯周病の危険にさらされてしまうことになるのです。
とはいえ、入れ歯の汚れは目に見えにくいことも事実です。
そんなときに目安になるのが「入れ歯のにおい」です。入れ歯の床に使われるプラスチック(レジン)には目に見えない細かい穴があいていて、そこに汚れや細菌が入り込みます。清掃が行き届いていない入れ歯は菌が繁殖し、臭いにおいを発します。