かく言う私はメディア業界に飛び込む前、実は医学生だった。医学部を卒業したが、医師にならずに新聞記者をしているという変わった経歴の持ち主だ。つまり、肥満になるメカニズムとその治療方法について、医学的な知識を持ち合わせていたはず。それにもかかわらず115キロという高度肥満にまでなったのは、肥満者に特有の「思考のクセ」というワナがあったからだ。
時間選好率という行動経済学の概念で説明されるものだが、肥満者には「未来の利益」よりも「目先の利益」を優先する傾向がある。つまり、太っている人にいくら「このままでは病気になる」と言っても、太りやすい生活習慣を止めることができないのだ。たとえ医師になるための教育を受けていても、である。
また、肥満は「満腹中枢」という脳の視床下部にあり、食欲を司る部位を変化させる。具体的には、食事の満足感を感じる働きが低下し、食べても「足りない」と感じるようになってしまう。過食は肥満をもたらし、悪循環となる。これらのことが意味するのは、太れば太るだけ太りやすくなる“肥満の沼”の存在である。一度そこに足を取られると、個人の意志だけではなかなか抜け出せないのだ。
繰り返しになるが、正しく行えばダイエットは絶対に結果が出る。結果が出ないのは、その方法が正しくないか、ダイエットをしているつもりでしていないかのどちらかだ。私は太った後、報道機関で医療記者になった。ダイエットをテーマに信頼できる専門家たちを取材するうちに、正しい方法と、それをどう行うべきかという知識を身につけた。このことが、私を肥満の沼から救い出してくれたのだ。そして2017年5月から10月の150日間で約30キロの減量に成功した。そこで大切なのは、「やせよう」という意志ではなく、やせやすい環境づくりだった。
まず、ダイエットの原理原則を紹介しておこう。それはすなわち「消費エネルギー>摂取エネルギー」である。よく言われることであるが、食事の量を減らし、運動の量を増やせば、太っている人は必ずやせる。しかし、落とし穴もある。例えば長期間の断食や「〇〇だけダイエット」のように偏った食事。摂取エネルギーは減るものの、栄養不足で筋肉と基礎代謝が落ちてしまう。特に筋肉が落ちるとボディーメイクの観点でも都合が悪い。体重は落ちても、手足はガリガリでおなかだけポッコリ、なんてことが起きる。そうならないためには必要な栄養素をしっかり摂取することが必要だ。ダイエットにおける食事は、日本肥満学会の『肥満症診療ガイドライン2016』において、目安となるエネルギー量や糖質・たんぱく質・脂質の割合が定められている。正しい知識を持ってダイエットの原理原則を運用しないと、効果がないばかりか、かえって体形を崩す。