もう長い間、誰とも雑談などをしていなかったのでしょうね。彼は堰(せき)を切ったように話し始めました。私たちはそれまで、互いに顔は知っていても言葉を交わしたことなどありませんでした。でも、私には放っておくことができなかったのです。
そのとき以降、彼は、私を守る側で働いてくれるようになりました。
私は別に、そんなことを意図して声をかけたわけではないのです。実際、私も経験したことがありました。ただこれも、自分が彼の立場だったら、どんな言葉をかけてもらったら「救い」になるのかを考えたら出てきた言葉です。
さびしい思いをしているひと、孤立しているひとをつくらないようにするというのは、なにも会社の中だけに限ったことではありません。社会の中で孤立しているひとをつくらないようにすることも、今の社会においてはますます必要なことではないでしょうか。
【しなやかに生きる知恵】
ひとが困っているときにこそ、手をさしのべる
小林照子(こばやし・てるこ)
美容研究家。ヘア&メイクアップアーティスト。1935年、東京都生まれ。東京高等美容学院を卒業後、小林コーセー(現・コーセー)に美容部員として入社。数々の大ヒット商品を手掛け、85年、同社初の女性取締役に就任。その後独立・起業し、美容ビジネスの企業経営や後進を育てる学校運営をおこなっている。2020年6月発売の最新刊『なりたいようになりなさい』(日本実業出版社)、『美しく生きるヒント』(青春出版社)のほか、『人生は、「手」で変わる。』(朝日新聞出版)、『これはしない、あれはする』(サンマーク出版)、『小林照子流 ハッピーシニアメイク』(河出書房新社)など著書多数