一方、ロイター通信の勤務を経て、メディア研究をしている林香里・東京大大学院教授は、相互監視のなか、多くの記者が自らの行動の基準を「社」としていることに注目し、官邸記者クラブを「閉ざされた部族社会」と表現した。
「番記者制度や夜討ち朝駆けの取材手法が、政治家の情報の出し方を甘やかしてきた」と分析し、「ICレコーダー回収などの実態をどう思うか」と問われると、失望を隠さなかった。
「ジャーナリズム研究をしていて、2019年になっても記者クラブの話を聞かれる。全然先に議論が進まない。この『部族社会』は独特な文化があって外からは見えない。なんとなく噂を聞いてエピソードを集め、それを繰り返して30年。それが嫌になっている」
「小宇宙の中での良い記者のイメージがどんどん閉じこもってしまっている。政治の事情通の人が良い記者ということになっている。しかし、世の中が求めているイメージは全然違う。社会が求めている今日の記者の素養は何か、立ち返ってほしい。官邸はそういったところに敏感で、メディアを制限したり分断したりしているが、記者は自分たちの規範や理念を、社会を通じて振り返るべきではないか」