北原みのりさん
北原みのりさん
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 作家・北原みのり氏の連載「おんなの話はありがたい」。今回は、新型コロナウイルスの感染が再び拡大する中でよく耳にする「夜の街関係」という言葉について。その言葉が覆い隠す現実に、もやもやするという。

【写真】風営法に基づく立ち入り調査を行ったが…

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“いわゆる夜の街関係”。ここ数週間で、一日何度も見聞きする言葉になっているが、何度聞いてもなじめず、違和感は日増しに大きくなる。このもやもやを、ここでいったん、整理したい。

 そもそもこの言葉が出てきたのは、緊急事態宣言解除後の感染者に「接待を伴う飲食店の従業員や客」が多くを占めていたことからだ。ホストクラブが名指しされ、フツーの人とは関係ない “別世界”を強調するために作られた言葉のようだった。案の定、水商売に対する差別だ!という批判もおきている。そりゃごもっともよ……と思いつつ、ちょっと待った。そもそも、1日300人を超える感染者を出している東京で、「夜の街が問題」とか「夜の街のせいにするな」とか、そんなやりとりをしている現実こそがモヤモヤの原因でもある。

 いったいCOVID‐19関連で、これほど「夜の街」がここまで騒がれる国は、ほかにあるのだろうか。そもそも「接待を伴う飲食店」は、コロナ前もコロナ後も、非常に日本的なものだ。女性を隣に座らせ、お酒をつがせ、男たちの絆を深めるホモソーシャルな社交の場が商談や密談の場になっていることも、そしてそれが一般的なサラリーマン男性(職種を問わず、地位を問わず、国会議員であろうがなかろうが)の日常的な夜の習慣であり、「あるのが当たり前」であるらしいことが、コロナが暴いた日本のリアルだ。海外の友人が「日本のサラリーマンって、仕事帰りに風俗やキャバクラに行くのか!」と驚いていたが、「驚かれるようなこと」なのだと思う。

 この原稿を記している最中、NHKのニュースが流れてきた。7月27日、港区では六本木の高級クラブで男性を接待する際のアドバイスを感染対策の専門家を招いて行い、その動画を区のホームページで公開するという。動画では食べる時はセンスで口を隠すなど、高級クラブ“らしい”仕草を提案していた。これは本当に今、税金を使って、そして区のHPで公開するようなことなのだろうか。

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デリヘルで働く女性は自己責任?