健康情報は長生きのためのさまざまな知恵を与えてくれる——―自由な生活を楽しむ権利と引き換えに。「健康より大事なことを、本当は誰もが持っている」と鋭く指摘する本『「健康」から生活をまもる』を6月に出版した医師の大脇幸志郎さんに、その意図を聞いた。
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たとえばビールに含まれるプリン体は痛風の原因になると言われている。だから痛風を避けるためにビールは飲みすぎないほうがいい。しかし重量当たりのプリン体の量を見ると、実は肉や魚のほうがビールの10~100倍も多い。だからビールが痛風を起こすリスクはそんなに大きくはない。
しかし真の問題は「ビールは健康に良いのか、悪いのか」ではない。そもそも私たちにとって一番大事なのは本当に「健康」なのか?
“酒は体にいいのか悪いのか。悪いに決まっている。飲まないほうがいいのか。健康のためなら、飲まないほうがいい。にもかかわらず、私たちは酒を飲む。明らかに健康に悪いことを、私たちは平気でしているのだ。それはなぜかを思い出してみよう。”
『「健康」から生活をまもる』はそんな話から始まる。
大脇さんは2008年東京大学医学部卒業後、フリーター、出版社勤務を経て医療情報 サイトのメドレーで3年間、「MEDLEYニュース」の編集長をした。そして今年6月、医師として勤めながら、本を出版した。
「医療記事を日々編集していくなかで、良心的な情報を提供することに限界を感じていました。私がやりたいのは、医学を絶対視せずに一歩引いた視点を与えることでした」
健康のための情報は、本当に私たちにとって大事なのか。大脇さんが考えていたのは、情報の内容以前の問題だった。
「結局、読者にとって便利なのは、情報が少ないことなんですね。今は情報が多すぎて、一つひとつ見比べられない。だからダメ情報を見分けることが必要になる。しかしダメ情報を見分けるために医学知識を身につけるというのは、あまり生産性がないと思ったんです。根拠となる知識がダメ情報だった場合、そのせいで新たなダメ情報を得てしまうということもある。そしてそれには自分では気づけない」