家庭科や現代社会は、覚えたことがそのまま実生活で役立つので、なぜ教わるのかわかりました。しかし、数学の「因数分解」、化学の「無機物質の反応」、生物の「DNA の構造」……これらはまったくといっていいほど、日常で使うことがない知識です。大学で専門的な研究をしたり、それに関わる仕事に就いたりするなら別ですが、普通に生きていくだけなら、こんな意味不明な勉強をしなくてもいいのではないか? そんな疑問が浮かぶのは、至極当然な流れだと思います。

 そんな私が勉強する理由を理解できるようになってきたのは、大学受験を経験し、勉強というものを俯瞰(ふかん)して見ることができるようになってからでした。もちろん受験勉強には、志望している大学に合格するためという、確然とした動機があります。ただ、それ以外に、化学、生物、数学、その中の因数分解のような勉強も、実は人生で役立ってくるものだとわかり、「やるメリット」を見いだせるようになってきたのです。

 たとえば数学では、「aが整数のとき、xの値を求めよ」という問題と、探すべき「答え」が存在します。このとき、目的であるxの値を求めるためにはyの値を出さなくてはならず、yを得るためにはzの関数を消さなくてはならない……解を得るためには、そうやって求めたい箇所から逆算し、必要な道筋を組み立てていきます。

 この作業は、実は日常で「達成したい目標」があるときに、「そこに至るためにはどのような方法をとったらいいか」を考え、やり遂げるための過程と全く同じなのです。ここで因数分解は、目標にたどり着くために用いる手段の一つとなります。ベクトルは点を移動させることができますし、複素数は点を回転させられる手段です。こうして自分がもっている手段を駆使し、試行錯誤しながら適切な選択を組み合わせていくものが数学であり、「答え」まで筋道をたててたどり着く能力を鍛えることで、人生の目標を達成する方法を論理的に考えられるようになってくるのです。

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