エルサレムのデモは前述のように、単にコロナ対策への不満だけではありません。デモ参加者は、汚職、詐欺、背任の三つの刑事訴追に直面しているネタニヤフ首相の辞任も求めているのです。ネタニヤフ首相の浪費とそれらすべてを税金でまかなっているという事実がデモ参加者たちの批判の大きな理由なのです。

 デモ参加者の一部は、トランプ米大統領とネタニヤフ首相が合意したヨルダン川西岸の一部併合する計画の停止をも求めています。多くの人は社会正義と国の資源のよりよい配分を求めています。そしてすべてのデモ参加者はイスラエルの民主主義の保護を求めているのです。

 市民と民主主義の観点からみると、エルサレムのデモは驚きです。デモにはいかなるリーダーや組織もありません。エルサレムの内外から、政治的背景や社会的な階層も違う老若男女が集まっているのです。民主主義を守ろうと議論しながらデモに参加する子ども連れの家族をふつうにみることができます。参加者たちは笛、ドラム、トランペット、もしくは台所用品を打ち鳴らして声を張りあげていきます。

 こうしたデモは、危機の時代であっては、とても重要なことです。なぜなら自国政府にコロナ危機の対応の善処を求めているだけでなく、イスラエルの民主主義を守ることを求めているからです(中東では民主主義は珍しいことですが)。米国の政治学者であるメアリー・アリス・ハダッド・ウエズレー大教授はこう述べています。「民主主義とは数年おきの投票や単に多数政党に政権をゆだねるというだけではない。民主主義とは政治を議論する人々、市民組織に参加する人からの風のエネルギーの強さを受け取り、その声を聴くことなのです」

○Nissim Otmazgin/国立ヘブライ大学教授、同大東アジア学科学科長。トルーマン研究所所長。1996年、東洋言語学院(東京都)にて言語文化学を学ぶ。2000年エルサレム・ヘブライ大にて政治学および東アジア地域学を修了。07年京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科修了、博士号を取得。同年10月、アジア地域の社会文化に関する優秀な論文に送られる第6回井植記念「アジア太平洋研究賞」を受賞。12年エルサレム・ヘブライ大学学長賞を受賞。研究分野は「日本政治と外交関係」「アジアにおける日本の文化外交」など。京都をこよなく愛している。

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