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妊娠中はおなかの赤ちゃんのことを考えて、歯科治療を控える人も多いようです。しかし、妊娠中は歯周病になりやすく、歯周病で早産や低体重児のリスクが高くなるという話も聞かれます。これは本当なのでしょうか? だとしたら妊娠中の歯科治療はどのようにすべきでしょうか? 詳しいお話を『なぜ歯科の治療は1回では終わらないのか? 聞くに聞けない歯医者のギモン40』が好評発売中の歯周病専門医、若林健史歯科医師にうかがいました。
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歯周病専門医の間では、
「女性には一生のうちに歯周病にかかりやすい時期が3度ある」
といわれています。それは(1)「思春期」(2)「妊娠・出産期」(3)「更年期」です。
原因は女性ホルモンです。
女性ホルモンのエストロゲンやプロゲステロンは血液循環を促進し、歯ぐきの炎症を引き起こす要因になります。さらに歯周病菌の中には女性ホルモンを好む「 P.i菌(Prevotella intermedia、プレボテーラ・インターメディア)」という菌がいます。
女性ホルモンの増加は歯ぐきの中でも起こるので、分泌がさかんになる思春期や月経の前後、そして妊娠中はP.i菌が増殖しやすくなります。
これに加えて妊娠中はつわりで歯みがきなどの口腔ケアがおろそかになりがちです。また、食の好みが変わり、夜中に突然、甘い物を食べてしまうことも珍しくありません。こうした環境から口の中が汚れやすく、細菌の塊であるプラークが付着しやすいため、歯周病にかかりやすいのです。
なお、更年期は女性ホルモンの変動が激しいこと、女性ホルモンの急激な低下から歯槽骨など歯を支える組織が破壊されやすく、歯周病が悪化しやすいといわれています。
そして、冒頭の解説にもあるように、妊婦さんが歯周病にかかっている場合、早産や低体重児のリスクが高くなるという研究報告があります。
口の中の病気がおなかの赤ちゃんとつながっているなんて、ぴんときませんよね?
しかし、最近の研究で歯周病菌やその関連物質は歯ぐきの血管を通じて、全身をめぐることがわかってきています。実際に、口の中にいたはずの歯周病菌がさまざまな臓器から見つかっているのです。これは子宮も例外ではありません。
その元凶は歯周病の代表的な症状の一つである歯ぐきの炎症です。赤く歯ぐきが腫れると血や膿(うみ)や口臭が出てきますが、実はこのとき、歯ぐきからは細菌が持つ毒素やさまざまな炎症性物質が次々と産生されています。