「『Apery』や『技巧』など、無料なのに強いソフトが公開されたことで、プロアマ問わずAIを活用するようになりました」(同)
そして、2017年にPonanzaが佐藤天彦名人(当時)に完勝したことで、将棋AIは名実ともにトップ棋士を超えた。AIは日々、めざましいスピードで進化を遂げている。AIは同一ソフトの1年前のバージョンと対戦すれば、7割の勝率を収めると言われている。
「人間の場合、トップ棋士が1年前の自分と戦って同様の戦績を収めるのはまず不可能でしょう。トップ棋士ともなれば、伸びしろはそこまで大きくありません。正直言って、AIはどこまで強くなるか想像がつかない。いずれ頭打ちするのではないかとささやかれたこともありましたが、青天井かもしれません」(同)
例えば、15年前に最強と称されたBonanzaが今のソフトと戦ったら、まったく歯が立たないという。
佐藤天彦名人がPonanzaに完敗した2017年から3年の間に、人間のトップ棋士とAIの差は、どれだけ開いているのか。
囲碁界では、世界のトップ棋士がハンディをつけてAIと公開対局を行う機会も比較的多いが、日本の将棋界は「ローカルでクローズドな世界」。トップ棋士がハンディを付けて対戦することはほとんどないため、AIとトップ棋士の差がどこまで開いているのかを測るのは難しいが、松本氏はこう推察する。
「一部では、すでに現在のトップ棋士と、角落ち(角を抜くハンディ)か飛落ち(飛車を抜くハンディ)の差がついているのではないかと言われています」
だが、AIがどんなに進化しても、人間のトップ棋士同士による対局の価値が下がることはないだろう。藤井聡太棋聖のブームに顕著なように、驚異的な成長スピードで進化を遂げる棋士の姿は、AIの「強さ」とは別の部分で見ている人を魅了するからだ。
「14歳のデビュー当時からすでに異次元の強さででしたが、その成長スピードは驚異的で、今は当時よりもはるかに強くなっている。この4年でコンピューター将棋に見劣りしない成長をみせたと言っても、言い過ぎではないと思います。藤井さんの成長スピードも、もはや『少年ジャンプ』の主人公を見ているような勢いです」(同)