●削り取られた信仰の象徴
以前、ハワイへは移民たちとともに日本の神社仏閣も海を渡った話をしたが、日本とアメリカの戦闘は信仰の自由さえも移民たちから奪い去った。日本から連れてきた神さまはすべて政府によって撤去され、信仰することを禁じられたのである。
ハワイの日系人たちは、戦後数十年がすぎた頃、ようやく寺社の復活が認められ今に至っているが、その爪痕はしっかりと各所に残っている。写真はオアフ島にある「ハワイ金刀比羅神社」の鳥居の足だが、戦前、鳥居が撤去される前に銘を削り取られたのだ。鳥居を復活させる際、削り取られた部分を修復することも考えられたようだが、歴史の記録としてこのまま残しておくことにしたらしい。「福島県安… 昭和七年六月…」と微かに読めることにむしろ胸が痛む。
●移民たちの活躍はハワイの王の心さえも動かす
ハワイがアメリカに併合されたのは1893年だが、正式な州に昇格したのは1959年のこと。それ以前は独立した王国であったが、イギリスやフランスが領有を宣言するなど列強の抗争に不安を感じていた当時のハワイの王・カラカウアは、明治天皇に連邦制や宮家との婚姻を提案している。すでに多くの移民がハワイで活躍しており(この頃はまだ違法に渡ハしていた人々)、日本に大きな期待を寄せていたとも言われてる。明治時代初期から、ハワイと日本には深いつながりがあったのである。
わたしが見た米国制のドキュメンタリーの中で、沖縄から移民した日系二世が敵として兄弟やいとこたちと戦場で出会った─という話があった。アメリカ人として戦う選択を拒否して、帰国した日系人もたくさんいたためである(NO-NO-BOYと呼ばれたこちら側の人たちの人生もまた壮絶である)。強制収容所に送られた家族を助けるためスパイとなった日系人の話もあった。
そんな複雑な歴史を編み込みながら、日本人はハワイを大好きな観光地として挙げ、ハワイの人たちは現地の日系人のすぐれた姿を日本人に重ね合わせている。果たしてわれわれ現代日本人はハワイの日系人のように尊敬されるに値するだろうか。ありがたいことに現地の観光業者の中には、コロナ禍からの復活工程の中で、日本からの観光客を最初に入れてほしいと要望を出してくれる人もいるという。世界から日本に寄せられる期待は大きいのである。明治時代のように、ハワイから差し出された手を突き放すようなことになるようなことだけは避けたいのだけれど。(文・写真:『東京のパワースポットを歩く』・鈴子)