指導した北島康介選手、萩野公介選手が、計五つの五輪金メダルを獲得している平井伯昌・競泳日本代表ヘッドコーチ。連載「金メダルへのコーチング」で選手を好成績へ導く、練習の裏側を明かす。第32回は、コーチの役割について。
【写真】昨年の世界選手権の男子200メートル自由形で2位に入った松元克央
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私が指導しているチームは8月1日から9日まで「解散」しました。
五輪史上初の延期が決まった3月下旬から7月まで、大きな目標を失った中でトレーニングを続けてきました。すぐに目標を切り替えられた選手もいれば、もやもやした気持ちをずっと抱えたままの選手もいました。
この時期に短い休みを入れたのは、ここでいったんリセットする必要があると考えたからです。
解散前、「もう一度集まったときは来年に向かってトレーニングを始める」と伝えました。
たかが1週間ちょっとの休みでしたが、それぞれの選手がリフレッシュして、新たな気持ちで練習が再開できています。
前向きな姿勢で練習に取り組む選手たちを見ていると、春から夏にかけて悩みながら進んできたことは無駄にはなっていないと感じます。
こういう困難な状況のときこそコーチの力が必要になってくるんじゃないか、と思っています。
新型コロナウイルスの感染拡大防止に十分配慮しながら、各地で競技会が再開されています。
千葉県国際総合水泳場で9日にあった公認記録会には昨年の世界選手権男子200メートル自由形で銀メダルを獲得した松元克央(まつもとかつひろ・セントラルスポーツ)が出場し、1分46秒69で泳ぎました。自身の日本記録には1秒47及びませんでしたが、しっかり練習ができていることを示しました。
五輪延期が決まってモチベーションが上がらなかったとき、松元は師事する鈴木陽二コーチから「こういうときこそ人間の本性が出るんだぞ」と言われて、気持ちを奮い立たせたといいます。
私もまったく同じことを選手に言っていました。4月から5月の緊急事態宣言で外出自粛が続き、練習に集中できない選手たちに「こういうとき、自分たちの持っている本性があぶり出される」と話していました。