この大学教授たちは、東日本大震災によって東北新幹線が破壊されなかったことをもって、安全だと判断しているが、まったく地震の揺れについて、基礎さえ理解していない人間であることに驚く。東北地方太平洋沖地震では、津波の災害は言語を絶するほど大きかったが、地震の揺れは、3年前(08年)の岩手・宮城内陸地震より小さかったのである。リニア中央新幹線は、おそらく南アルプスを貫通すると予想され、なんと80%以上の路線が、地下40メートルより深い大深度トンネル内となる。構造物には、とてつもなく高い耐震性が求められるのだ。
南アルプスを貫通するルートは、日本最大の活断層である中央構造線と、糸魚川-静岡構造線が交錯する土地を横断する。この一帯における過去の地震の傷跡は、路線ルートのありとあらゆる地域に刻まれている。とりわけ日本の記録上、最大の内陸地震は、1891(明治24)年10月28日に発生したマグニチュード8・0の濃尾地震で、今から100年以上前に死者7273人、負傷者1万7175人の大惨事となった。 震源域は福井県から岐阜、愛知県にまたがり、根尾谷(ねおだに)では80キロにわたる大断層が出現して、上下方向に最大6メートル、水平方向に最大8メートルのずれが起こっているのだ。このような大地震では、長大な活断層の激動によって巨大な岩盤に亀裂が生じるので、いかなる耐震性をもってしても、トンネルも線路も一撃で吹っ飛び、破壊されてしまう。この大地震帯に、コントロールのきわめて困難な超電導方式で高速鉄道ルートを選ぶこと自体が、常軌を逸している。東海地震の震源域に建設された浜岡原発とまったく同じである。まして東海・東南海・南海の三連動地震が近づいているこの時期に、それに沿ってトンネル工事をしようというのだから、その人間たちの神経が理解できない。
◆巨大な電力消費、原発増設が前提◆
さらにこの大学教授たちは、リニア中央新幹線プロジェクトを、日本が元気になるための計画だと位置づけている。この動機そのものが、見当違いであり、トンデモナイ人間たちではないか。日本で最大の自然を誇る南アルプスの山を破壊するのが、この土建プロジェクトである。駅の設置場所も未定で、環境アセスメントもできていない。用地買収も決まっていない。地元には停車もせず、住民は被害を受けるだけだ。
リニア中央新幹線は東海道新幹線の3倍といわれるエネルギーを必要とする。電力消費を抑制しようと、必死に節電に努めているこの日本で、時速500キロで走行時の超電導リニアの想定消費電力は、1列車で約3・5万キロワットにもなるという。この新幹線が必要とするのは、原発数基分に匹敵するエネルギー量になる。JR東海は自前の発電施設を持たないので、当然のことながらこの電力は、新潟県の柏崎刈羽原発や、静岡県の浜岡原発から送ることを目論んで進められてきたのである。今や廃炉が決定的となった浜岡原発の復活論をバックアップするために、福島第一原発メルトダウン事故の直後にリニアのプロジェクトをぶちあげたのであれば、いっそう許し難いことである。