最後に外出したのは友人宅を訪問した1月19日。出がけに友人は私に言って寄こした。肺炎の流行は当局の発表よりもひどいに違いない、と。私自身の政府に対する認識からも、当然彼らは習慣的にうそをつくものと思っているから、私は慎重に地下鉄という選択肢を捨て、行き帰りはマスクをしてタクシーを使った。
友人はかつて体制内の公務員だった人で、私たちは言葉を交わしながら流行は当局の発表よりも深刻であるに違いないと確認し合った。しかし、肺炎の流行が当夜のメインの話題というわけでもなかった。実際の新型肺炎の流行を「再放送で」見直せば、1月19日は「内部通報者」李文亮医師が治療のため入院してすでに1週間が経過している。
そもそも私は2019年11月中旬に日本行きの往復航空券を2往復分、予約していた。一つは、前述した大晦日から新年にかけての滞在のためのものであり、もう一つは旧正月の時期の2020年1月23日出発、2月4日帰国の往復チケットだ。ここ何年も私は春節期間、武漢に留まらず海外へ旅行している。23日は夜便なので、前もって荷物をまとめることもなく、当日ゆっくり起きだしてそれから荷造りすればいいぐらいに考えていた。
■届いたキャンセル情報
それ以前に武漢市がロックダウン(都市封鎖)されるのではないかという風聞を耳にしたことはあったが、内心では根も葉もないことと思っていた。空港における体温検査が厳格に行われるだろうとは予期していたが、それはよいことであるし、私は健康なのでまったく問題はないと思っていた。ところが。
1月23日午前7時すぎ、スマホのアプリに搭乗予定便のキャンセル情報が届いた。私は震え上がった。そんなことがあり得るのか、本気でロックダウンをするのか、小説や映画に出てくるような絵空事ではないのか? どうしてよりによって今日なのか、明日ではないのか?
おかしいじゃないか、ついこの18日に百歩亭エリアの人々が総出で、来る新年を祝う大パーティーが開かれ、万余の人が一緒に食事をしたのではなかったか。19日に友人宅を訪れたときだって、タクシーの運転手は私がマスクをしているのをちらりと見ても、自分がマスクをしていないことについて申し訳なさそうなそぶりは見せなかった。21日にしても、街を行く人々の90パーセントはマスクをしていなかった。どうしてかくも突然、都市全体を厳重に封鎖しなければならないのか? 武漢は人口1000万超の大都市だというのに!