漫画家&TVウォッチャーのカトリーヌあやこ氏が「おじさんはカワイイものがお好き。」(日本テレビ系 木曜23:59~)をウォッチした。
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眞島秀和演じるバツイチ43歳、小路(おじ)さんというおじさん。道で足をグネッとしたOLがいれば、すかさず抱きとめ「おけがは?」と問い、もちのろんでOLさんキューン。スタイリッシュにシヤチハタにハーッと息吹きかけて押せば、宅配業者の兄ちゃんまでキューン。
そんなイケオジ小路さんの誰にも言えない秘密。それはカワイイキャラもの「パグ太郎」を溺愛(できあい)してるということだ。
部屋の中はグッズだらけ、休日にはパグ太郎新作ガチャのため遠征も辞さない。「課長、あのクールな瞳の奥で何を考えてるのかしら」なんて社内で噂(うわさ)されているけど、脳内に渦巻くのは「何これカワイイ~」とダダ漏れる推しへの愛のみ。
そんなカワイイものを愛(め)でるおじさんを愛でるという「おじキュン」ドラマ。そう、時代はおじさんだ。おじさんが顔芸でひしめき合うドラマ(「半沢直樹」)や、おじさんがただただ飯食ってるドラマ(「孤独のグルメ」)が大受けしちゃう今日このごろ。
おじさんと銭湯、おじさんとサウナ、おじさんと車中泊などなど、主にテレビ東京が開拓してきたこの分野。おじさんとカワイイものが合体するのに何の不思議もない。
元来おじさんには何かに萌(も)えて愛でて収集しちゃう性癖があると思う。例えば戦国時代の茶の湯。器を求め、茶室を作り、作法を学び、そのうちコアな知識でお仲間にマウントしようとしたりする。
このドラマの中で語られる「ムダと言ったらムダだけど、これがあるから頑張れる」という「推しへの愛」の真理。
推しは仕事のモチベーション。グッズをひたすら集めて満たされる。いつ課金するの? 今でしょ! 千利休も言ってたから。「一期一会の精神が大切」だって。
しんどいダルいお勤めから逃避できる「推し愛」の世界。きっと戦国のおじさんたちも、一服のお茶で日頃のうっぷんから解き放たれたにちがいない。
侘(わ)びと寂びと萌えと。外国語に翻訳するのがなかなか難しいと言われるこの三つの言葉。古びて枯(か)れたものに新たな味わいを見いだし愛でる感覚が「侘び寂び」だ。
ならば「侘び寂び」=おじさんと、カワイイもの=萌えが合体したこの作品こそ、「侘び寂び萌え」の三位一体ドラマでは? とりあえずお抹茶たててみようか。
カトリーヌあやこ/漫画家&TVウォッチャー。「週刊ザテレビジョン」でイラストコラム「すちゃらかTV!」を連載中。著書にフィギュアスケートルポ漫画「フィギュアおばかさん」(新書館)など
※週刊朝日 2020年9月4日号