◆◆◆◆◆交通途絶...「帰宅難民」にならないためには◆◆◆◆◆

 11日の大地震で、東京の「帰宅難民」を救ったのは主に地下鉄だった。JRは全く無力だった。

 この日、JR東日本が首都圏などの在来線を全面運休すると決めたのは、地震発生から約3時間半後の午後6時20分だった。

「余震による被害が出るとさらに危険になる」

 JR東日本からはこんな説明があった。

 しかし、東京メトロの銀座線や半蔵門線の一部、都営地下鉄の大江戸線全線など、地下鉄は午後8時40分ごろに再開し、深夜までにはほとんどの路線が運転を始めた。都営地下鉄の担当者は、

「多くの帰宅難民が発生していた。少しでも足を確保しようと全力をあげた」
 と、話す。余震の心配はなかったのか。

「余震があればその都度、安全を確認する。一刻も早く、再開することを目指しました」(東京メトロの担当者)

 JRの弱さは、東京電力の計画停電が始まった14日朝にも浮き彫りになった。地下鉄はほぼ全線で運転したが、JRは山手線や中央線などだけで、総武線や東海道線は運休した。シャッターを閉めたままの駅もあり、対応しないJRに代わって、駅そばの交番が運行情報を貼り出し、利用客が集まる光景も見られた。

 通勤や通学にJRを使っている人たちは、災害時の"弱さ"を認識し、JRを使わない経路も調べておいたほうが無難なようだ。

 11日の地震後は、多くの人がバスやタクシー乗り場に向かった。午後5時、東京・早稲田のバス停に来るバスは、どれも満員だった。

「乗せろー!」

 ドアを開けずに発車するバスに、待っていた人が車体をたたいて抗議する。50代の女性はこう訴えた。

「家には年老いた母が一人でいて、携帯電話もつながらない。どんなにギューギューでもいいから、早く帰って母に会いたい」

 歩いて帰る人も多く、スポーツ店では運動靴が飛ぶように売れ、量販店では自転車も売り切れた。

 東京・二子玉川では、多摩川を越える橋付近の歩道が、通勤ラッシュ並みに混雑した。反対から来る人もいてすれ違うのも容易ではない。車道にあふれ、ひかれそうになる人もいた。

 しかし、政府の「首都直下地震対策」によれば、公共交通は基本的に止めて、むやみに人が移動しないようにするのが原則だ。首都直下型地震が起きれば、地下鉄だって運転再開は難しい。

「今回の地震では、首都圏の道路は無事で、建物倒壊もなく、火災も停電もほとんど起きなかった。これほど恵まれた状況下でも、自宅に帰るのに苦労したわけです。直下型地震があれば、自宅に安全に帰れるでしょうか。道路は寸断され、破片やガラスが落ちてくるので、歩くのも危険です」

 東京大学生産技術研究所の目黒公郎教授(都市震災軽減工学)は指摘する。

「むしろ職場や地域、学校、被災した場所の周囲の人と力を合わせるべきです。けが人が多数いるはずですから、元気な人は助けてあげてほしい。帰宅できない人を難民にせず、救助者になってもらうことが、重要なのです」(目黒教授)

 そのためには、通信手段の確保とともに、遠方からでも、家族や知人の安否を確認できる態勢をつくることが重要だという。

 これは、子どもだけを残して共働きをする家庭でも同じだ。目黒教授は、
「隣近所とのつきあいを大事にして、いざという時には助け合ってほしい」
 と話し、危険を冒して自宅に帰らなくても、万が一の時には子どもの面倒を見てもらえるように、近所との関係を深めておくべきだ、と指摘している。


◆◆◆◆◆万が一の時、使える通信手段はこれだ◆◆◆◆◆

 ライフラインが全滅した街では通信手段は皆無に等しい。だが、全滅を免れていれば、安否情報を伝える方法は確実にある。電話やメールだけに頼るのは心もとない。今回の大震災を機に、ふだんの通信環境を見直してもいいかもしれない。

 地震発生日は、編集部のインターネット動画中継番組「週刊朝日UST劇場」の放送日だった。地震が起きたのは放送の約6時間前。担当するデジタル班スタッフは、1人が編集部にいたが、あとの5人は都内や千葉県内にいた。

 固定電話や携帯電話、携帯メールがなかなかつながらず、編集部員の安否確認が難航するなか、デジタル班だけは1時間で全員の安否を確認できた。

 通信手段に選んだのは、短文投稿サイト「ツイッター」だ。編集部にいたスタッフがパソコンからメッセージを送ると、5人から返信があった。全員がツイッターの利用者だったことと、インターネット回線が通じたことが奏功した。

 ツイッターは被災地でも威力を発揮したようだ。

 仙台市に住む30代の男性会社員も、地震発生直後、会社の同僚との連絡にツイッターを使ったという。

「ニュース速報だけでなく、自治体から発信される情報も拾える。利用方法を知っていれば、いざという時に役立つと痛感しました」

 ツイッターには、炊き出しや避難所、病院の案内、阪神・淡路大震災で被災した人からの"知恵"も多数書き込まれていた。

〈友人の家族の安否が不明のままです。宮城県○○市××× 氏名△△△△〉
 といった情報も飛び交った。これを元ライブドア社長の堀江貴文さんや、歌手の浜崎あゆみさんらがリツイート(転送)することで、数十万人の利用者に情報が広まり、安否の確認にも一役買った。

 ただ、宮城県南三陸町や石巻市など壊滅的な被害を受けた地域では、電話もインターネット回線もほとんど使えなくなったため、あまり機能しなかったようだ。

 一方でこんな声もある。

「みんながリツイートすることで余分な情報があふれ、閲覧に時間がかかった。携帯電話のバッテリーを消耗するので困った」(仙台市内に住む30代主婦)

 被災地では携帯電話をまともに充電できない。予備のバッテリーを確保しておくことも必要だろう。

 安否確認には、固定電話を使ったNTTの「災害用伝言ダイヤル」も、ある程度は役に立った。これなら被災地の人が録音したメッセージをどこでも再生して聞けるし、NTT側も一般の電話よりもつながりやすくしている。だが、今回の大震災では、それすら通じにくくなった。

 ここはやはり複数の通信手段を確保して、状況に応じて「使えるもの」を選べるようにしておきたい(次㌻表参照)。どの通信手段が使えるかは、その時々の「回線」の具合や、地域の状況によって大きく変わるからだ。

 機種にもよるが、携帯電話やスマートフォンでは、3Gという通常の携帯電話回線と、無線でインターネットにつながるWi-Fiの二つの回線を使える。両方が使える機種を選べば、たとえば3G回線がつながらなくても、Wi-Fiを使ってメールやインターネットを使う、といったことができる。

 デジタル班がおすすめするのは、多機能のスマートフォンと、携帯型のWi-Fiルーター(中継装置)をセットで持つことだ。

 ルーターはWi-Fiに接続してくれるアンテナのようなもので、家電量販店で買える。手のひらサイズなので、服のポケットにも入る。月々数千円の利用料がかかるが、これがあれば外出先でもWi-Fiを利用できるようになる。

 今回の大震災では、動画中継サイトの「ニコニコ動画」や「ユーストリーム」が、NHKと民放の報道番組を無料で放送した。スマートフォンを持っていれば、ボタン一つで動画中継サイトにもアクセスできる。テレビがなくても報道番組が視聴できるのは心強い。

 テレビ電波を受信できる地域なら、地上波テレビのワンセグ放送の受信機能がついている携帯電話やスマートフォンを使う手もある。今回の大震災では、被災直後に車内のカーナビで報道番組を視聴した人も多かったようだ。

 みなさんお手持ちの端末には、どのような通信手段や機能が備わっているだろうか。万が一に備え、確認してみてはいかがだろう。
 
 
◆◆◆◆◆「東北関東大震災」時の通信状況◆◆◆◆◆

◆固定電話◆
NTT東日本では地震発生直後から被災地や東京都に向けた発信規制を実施。14日午前6時の時点では、宮城、岩手を中心に約56万回線が不通に。KDDIでは東北以北と関東以西で加入者同士の全通話が不能に。

◆公衆電話◆
11日午後8時頃までには、NTT東日本営業エリアの17都道県全域の公衆電話が無料化された。都内では使用するまでに1時間以上待った人も。

◆携帯電話(通話)◆
被災地を中心に一時はほぼ全面不通となった。都内では通信会社によって、現在(14日午後1時時点)もつながりにくい状態が続いている。総務省によるとNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイル、イー・モバイルの4社で東北地方にある基地局全体の約4割で障害が起きた(13日午後3時時点)。

◆Skype◆
インターネット回線や携帯電話回線を利用する電話サービス。パソコンや一部のスマートフォンから利用できる。都内では地震発生数時間後に通話ができた。Skype利用者同士であれば無料だが、一方がSkype利用者ではない場合は有料。緊急電話番号(110番など)に発信することはできない。

◆災害用伝言ダイヤル◆
通信規制下でも利用可能なため、被災地にいる人の生存確認や連絡手段として使われた。ただし、録音には被災地の市外局番を含んだ固定電話番号の入力が必要。録音時間は30秒以内。

◆携帯電話(メール)◆
地震発生直後は携帯電話回線を利用するメールの利用は困難に。スマートフォンではインターネット回線でも送受信可能なメール(GmailやYahoo!メールなど)も利用できるため、携帯電話回線が不通でもインターネット回線に接続できる地域では地震発生直後も送受信ができた。 

◆災害用伝言板◆
パソコンや携帯電話から書き込まれた伝言を閲覧できる。書き込まれた伝言は安否確認をしたい人の電話番号を入力することで検索できるが、回線が不安定な時間帯ではつながりづらかった。Google社が提供する「Person Finder」では書き込んだ人の名前で検索可能で、登録件数は約17万。

◆Twitter◆
安否情報だけでなく、政府や各自治体、報道機関が発表した避難所やライフラインなどに関する情報が即座に書き込まれるため、情報入手手段としても活用された。特定の人と直接メッセージのやり取りができるダイレクトメッセージは、電話やメールのやり取りができないときに活躍。地震発生後はアクセスが殺到したため、つながりにくくなるときもあった。

◆mixi◆
地域別の専用ページが設けられ、頻繁に情報交換がされた。インターネット回線が不安定な地域では利用が困難だったが、一度接続に成功すると「最終ログイン(接続)時間」が記録されるため、生存を伝えることができた。ただし、ツイッターと同じく不正確な情報も見受けられた。

◆ブログ◆
安否情報を伝える手段として機能。お笑いコンビ「サンドウィッチマン」の富澤たけし(36)と伊達みきお(36)が宮城県気仙沼市でのロケ中に被災。二人は避難先の山中からブログを更新して撮影クルーの無事を報告。コメント欄を掲示板がわりにして安否確認するよう呼びかけた。

◆ニコニコ動画、Ustream◆
視聴にはパソコンやスマートフォンが必要だが、ニコニコ動画はスマートフォン以外の一部の携帯電話からも視聴できた。携帯電話回線でも視聴できるが、安定的な視聴にはインターネット回線接続が必要。

◆ワンセグ放送◆
携帯電話回線やインターネット回線に接続されていなくても視聴できるため、地震発生直後から安定して利用できた。視聴にはワンセグ対応携帯電話、テレビや一部のスマートフォン、チューナーを接続したパソコンなどが必要。「停電だったのでカーナビで視聴して情報を入手した」(秋田市在住の30代会社員)という人も。

※本誌調べ(3月14日現在)。評価は編集部員や被災者からのヒアリング、関係当局への取材をもとに総合的に判断。


週刊朝日