AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
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人もまばらな街をスケートボードに乗った少年たちが駆け抜けていく。描かれるのは、スケボー少年たちのキラキラとした青春の日々か。そう思って観続けていると、カメラは思わぬ方向へと向かう。
ドキュメンタリー映画「行き止まりの世界に生まれて」の舞台は、アメリカの「ラストベルト(錆びついた工業地帯)」と呼ばれるエリアにある街、ロックフォード。映し出されるのは、そこで暮らす若者たち、そして一人一人の笑顔の裏にある、複雑さと混沌に満ちた人生そのものだ。
監督であるビン・リュー(31)がスケートボードを始めたのは13歳のとき。その後、カメラを手にスケートビデオを撮り始めた。
「カメラを手にしていると、仲間たちは不思議と僕に尊敬の眼差しを向けてくれた。僕はどちらかと言うとシャイな少年だったから、一見クールで近づきがたいスケートボーダーたちと仲良くなるためにも有効な手段だったんだ」
ドキュメンタリーを撮ろうとさまざまな人物にインタビューするなかで、スケボー仲間であるアフリカ系アメリカ人の少年、キアーの“告白”に胸が締めつけられたと言う。キアーは父親から暴力を受けていたのだ。同じく10代の頃からの仲間で若くして父親になったザックと、キアーを中心に、ビンはそこで暮らす人々の姿を追い続けた。
育児放棄や家庭内暴力は「貧困」とともにあるものなのか。どうしても止められないものなのか。そんな大きな問いが突きつけられる。
「ザックもキアーも、スケートボードに乗っているときは自然体でいたけれど、彼らの日常にカメラを向けたときは少しナーバスになっているように見えた」とビンは言う。
この作品が傑出しているのは、監督であるビンもまた、作品のなかに登場している点だ。継父との関係、母に対する葛藤を、ビンはカメラの前で語り出す。
「最初から自分を映し出すことを考えていたわけではなく、作品の編集中に『そもそもなんでこの作品を撮りたかったの?』と周囲に聞かれたことがきっかけだった。問題は、自分で自分を撮影している限りはザックとキアーのように弱さをさらけ出すことができないということ。だから、自分のシーンは別のカメラマンに担当してもらった。自分ではコントロールできないほどの感情の揺れを観客に届けなければと思ったから」