「コンビニ百里の道をゆく」は、51歳のローソン社長、竹増貞信さんの連載です。経営者のあり方やコンビニの今後について模索する日々をつづります。
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高校生棋士の藤井聡太棋聖が史上最年少での二冠を達成しました。棋聖戦での初タイトル獲得からわずか1カ月余りでの快挙です。
新進気鋭のスターが誕生すると、その活躍が注目される一方、続けて2回、3回と結果を残す難しさも課題になります。盛り上がる世間の勢いや期待に重圧を感じ、コンディションを保てなくなってしまうのかもしれません。
ところが、藤井二冠は心の揺れが盤上にはもちろん、自身の表情や雰囲気にも一ミリたりとも出ないのです。集中力を切らさずにいるには、並外れた体力と精神力が必要です。AIが選ぶ最善手と一致するなど、将棋盤への向き合い方も、我々の想像をはるかに超えていると感じます。
他方、藤井二冠と対局するお相手も、他の勝負とは違う緊張感を強いられることでしょう。世間が藤井二冠のさらなるタイトル獲得を期待する中での勝負。いやが応でもプレッシャーは高まるはずです。
そんな藤井二冠もいずれは追われる立場になります。指し手を研究され、今までとは違う重圧がのしかかる。その中でどのような将棋をして、「圧倒的藤井時代」として勝ち続けていくのか。将棋界もさらに活気づいて、戦国時代のように切磋琢磨する時代が始まったように思います。
また、藤井二冠は会見などでは常に謙虚で朴訥とした立ち居振る舞いです。対戦相手への敬意の払い方についても学ぶところが多い。偉業を達成したにもかかわらず、まだまだ勉強して強くなりたいという探究心と勝利への執着、成功と失敗双方の分析は、ビジネスにおいても大切な姿勢です。
新型コロナウイルス禍で世の中に暗いムードが漂う中に飛び込んできた、久しぶりの明るいニュースです。これが将棋界を超えて、各業界に広がっていけばいいなと願っています。
竹増貞信(たけます・さだのぶ)/1969年、大阪府生まれ。大阪大学経済学部卒業後、三菱商事に入社。2014年にローソン副社長に就任。16年6月から代表取締役社長
※AERA 2020年9月14日号