だが、一方で彼の「国家観」や「めざす国のあり方」はよくわからない。目の前の各論や個々の政策実現には馬力を発揮するが、では何をしたいのかがいま一つ見えないのだ。本人も政策力のなさは自覚していて、だから朝昼晩と二階建て、三階建てで人と会い、食事を共にして政策課題について勉強した。重なる会食で太らないよう、オーダーは豆腐が定番だった。

 菅氏らしさが良くも悪くも見て取れたのが、外国人労働力の拡大をめざした2018年の入管法などの改正だ。その年の春まで主要な政策テーマとなっていなかったのが、菅氏が強力に推進して年内に成立させてしまった。労働力が足りないという現場の悲鳴を受けた策だったが、今後日本の人口や社会をどう考えるのか、外国人とどう共生していくのかといった全体像は提示されないままだった。

 だから、国家理念がクリアだった安倍晋三氏とはいいコンビネーションだった。全体像を安倍氏が示し、菅氏がひたすら実現に向けて突きすすむ。自身、官房長官や党の幹事長になりたいと若い頃から口にしていた。

 安倍氏と親しくなったのは、拉致議連の活動を通じて。第1次安倍政権で失敗した安倍氏を、もう一度担ぎ出そうとしたのも菅氏が中心だ。調子の良い時には皆寄ってくる。が、挫折した時に声をかけ励ましてくれた人物は格別の存在だ。だから安倍氏は菅氏に絶対の信頼を寄せた。官房長官時代も「総理は俺に全部任せてくれるからすごく楽」とよく語っていた。

 二世三世の目立つ永田町にあって、異色の存在であることは論をまたない。が、最高権力者となって裏方体質から脱皮できるか。政治家の家系でもない子どもが政治家を夢見た時に「菅総理がいたんだから、なれる」という存在になれるだろうか。(朝日新聞編集委員・秋山訓子)

AERA 2020年9月14日号

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