「無派閥だからこそ、絶大な派閥の力に頼るしかない。だから今回は安倍首相と派閥の領袖(りょうしゅう)らが作った神輿(みこし)に担がれる役として菅さんは抜擢された。事実上の『院政』ですよ。でも、一国の首相としては安倍さんの憲法改正のような、命を賭してでもやり遂げたい政治信念がない。官房長官として政権のスポークスマンをやらせれば上手いが、国のトップとして、自分の言葉で国民心情をつかむ話術があるかといえば、難しいのではないか」
■人当たりよく信念ない
確かに、9月2日の総裁選への立候補を表明した記者会見を検証すると「安倍政権の継承」や「コロナ対策」はともかく、独自カラーで目をひいたのは「携帯電話料金の引き下げ」「洪水対策としてのダム建設」と中途半端な人気取り政策ばかり。「雪深い秋田の農家の長男に生まれて……」から始まる半生の件(くだり)も、特段、胸を打たれるエピソードはなかった。
迎え撃つ野党の本音は、「安倍政権からの脱却を掲げる石破さんが相手じゃなくてよかった」だ。立憲民主党と国民民主党は、自民党総裁選投票日の4日前に新党の代表選を行う。立憲の枝野幸男代表と、国民の泉健太・政調会長が立候補するが、枝野氏が新党代表に選出される見込みだ。枝野氏を支持するベテラン国会議員は、菅総理となった場合の対抗戦術をこう打ち明ける。
「これまで不問に付されてきた政策や不祥事の検証と真相究明を求めたい。あちらがいまだに『悪夢の民主党政権』と言うなら、立憲主義を破壊し、憲法をないがしろにした『悪夢の安倍政権』を引き継いだ菅政権と、どちらが政権を担うにふさわしいか有権者に問うてもらいましょう」
解散総選挙は有るやなしや。いずれにしても、与野党ともに有権者不在の代表選であるのだから、早い段階で国民に信を問うのは、当然のことである。(編集部・中原一歩)
※AERA 2020年9月14日号