■術後の痛みが少ない手術が主流に
また、断裂が大きい場合には、早めの手術が必要だ。腕の上げ下げのときに上腕骨頭が上下に動いて上方の肩峰に衝突するため、そのまま放置すれば最終的に肩関節が破壊されて変形性肩関節症に進行し、人工関節になる可能性もあるためだ。
肩腱板断裂の手術は、肩に数カ所の小さな穴を開けて関節内視鏡や手術器具を挿入しておこなう「関節鏡視下手術」が主流となっている。からだへの負担が小さく、手術後の痛みが少ないのが利点だ。スーチャーブリッジ法と呼ばれる方法で、縫合糸のついたビスを骨に打ち込み、切れた腱板を引っ張ってきて骨に縫着させる(イラスト参照)。関節鏡視下手術は技術と経験が必要なため、治療経験豊富な病院で手術を受けることが勧められる。
「高齢者では、腱板自体の筋肉が痩せているために切れた腱板を引っ張っても硬くて戻らず、手術が難しいケースもあります。断裂の大きさに加えて、患者さんの年齢、活動性、職業、生活習慣などを考慮したうえで、手術するかどうかを決定します」(同)
手術後には一度剥がれた腱が骨に癒合するまでに長い時間がかかる。大断裂では術後4週間は外転枕を装着して固定する必要があり、完全に腱が骨にくっついて自力で腕を上げられるまでには通常8週間ほどを要する。
「手術後に再び腱板が切れてしまう術後再断裂は、その8割が3カ月以内に起こります。組織修復において重要な時期なので、負担がかからないようなリハビリをおこなっていきます」(菅谷医師)
手術をした後にも、完治するまで適切なリハビリを続けることが不可欠だ。
(文・坂井由美)
≪取材協力≫
船橋整形外科病院 スポーツ医学・関節センター長 菅谷啓之医師
同愛記念病院 整形外科・副院長 中川照彦医師
※週刊朝日ムック『新「名医」の最新治療2020』より
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