市役所を辞める前から、薫さんは新潟産業大学と新潟工科大学で「コリア語」の非常勤講師を務めていた。だが、中央大学3年生だった78年に拉致されたため、最終学歴は高卒。

 「学歴が必要なんだ」

 そう透さんに語った薫さんは、市役所を辞めた年の秋に中央大学へ復学した。

 卒業した08年の春に、新潟産業大学の専任教員に昇格した。学生に教えるかたわら、薫さん自身も地元の大学院で勉強を続けている。長女は大学院を卒業して東京で就職し、長男も東京の大学に在学中だ。

 福井県小浜市に住む地村保志さん(55)、富貴恵さん(55)夫妻は、今でも地方公務員として勤務を続けている。

 保志さんの父の保さん(83)は最近、夫妻の自宅を訪ねたときに、こんな光景に遭遇した。

 「早口の朝鮮語の会話が聞こえるんだよ。いまも、ときたまポロッと出るみたいだね。当初は日本語に不自由した3人の孫は、今ではすっかりなじんだ。長女は地元の信用金庫、長男は大手メーカーの小浜工場で働いている。次男は関西の大学に通っている。今年の正月こそ、家族水入らずの集合写真を撮りたいね。実はまだ持ってないんだよ」

 新潟県佐渡市に住む曽我ひとみさん(51)は、市の養護老人ホームの准看護師として多忙な日々を過ごす。長女も市職員、次女は市内の酒造会社に勤務中だ。

 夫のジェンキンスさん(70)は5年前から佐渡歴史伝説館の売店コーナーで働き、いまや「名物おじいちゃん」である。

 「観光客に頼まれれば、笑顔で写真に納まってくれます。佐渡観光の目玉のひとつですよ」(同館職員)

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