尖閣諸島沖の衝突事件やノーベル平和賞授賞などをめぐり、中国の強硬ぶりが目立つ。「オレ様外交」に怒りを覚えた人も多かっただろう。だが、ジャーナリストの富坂聰氏は、中国こそが国際的に追いつめられ、焦っているのだと指摘する。強気の裏にある実情を聞いた。
尖閣沖の事件では、「戦後最大の外交敗北だ」と強い調子の批判が、国内では目立っています。中国に屈服し、逮捕した中国漁船の船長を釈放させられたことに、情けなさと怒りを感じている人も多いでしょう。
でも、冷静に考えてみてください。今回の騒動で、日本は本当に何かを失ったのでしょうか。
「存在しないはずの領土問題に世界の目を向けさせてしまった」
そんな指摘もありますが、日本が実効支配する状況は変わっていません。
むしろ中国のほうが日本の対応に焦り、国際的に傷つき、経済的な損失を招きながら、何とか「日本に勝った」という形を取り繕ったのが実態なのです。
なぜ焦ったのか。それは、菅直人首相や民主党の外交音痴ぶりが、中国の想像を超えていたためです。
中国の漁船が海上保安庁の巡視船に衝突したのは9月7日。翌8日の未明に船長が日本側に逮捕されたとき、中国は2、3日で釈放されるとみていました。
04年3月、中国人の活動家7人が尖閣諸島に上陸して逮捕されたときに、「日中関係に悪影響を与えない大局的な判断」(当時の小泉純一郎首相)により、起訴されずに強制送還された先例があったからです。