史上最長政権の突然の幕引き。急きょ実施されることになった自民党総裁選は、「安倍継承」をうたう菅義偉官房長官が本命となり、9月14日には菅自民党総裁が、そして、16日には「菅首相」が誕生する見込みだ。なぜこの流れが一気に加速したのか、菅氏の首相としての資質はいかばかりか。ジャーナリストの池上彰さんと作家で元外務省主任分析官の佐藤優さんとがじっくり語り合った、AERA 2020年9月21日号の記事を紹介する。
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──安倍首相の辞任発表を受けて内閣支持率が急上昇し、安倍継承をうたう「菅首相」の誕生を歓迎するムードが漂っています。
■急に惜しくなる としまえん現象
池上:安倍首相がやめるとなったとたんに内閣支持率が急上昇したことを私は「としまえん現象」と呼んでいます。それまで誰も見向きもしなかったのに、遊園地がなくなるとなったとたんに、みんなが殺到して最後は大勢の人が列を作るという。日本人というのは、なくなるとわかると急に惜しくなるんです。あるいはこの支持率の上昇は、安倍内閣への餞別だというふうに考えていいんじゃないかなと思っています。
それに、第1次安倍内閣のときには、安倍さんがおなかが痛くなって辞めたことに無責任だという声が上がりました。実は潰瘍性大腸炎という難病だったことで、「無責任だ」と言うと、病気に苦しむ患者に対する無神経な批判に繋がってしまうから、今回はみんな口をつぐんで「お可哀想」「頑張りましたよね」っていうふうになっているというところがあるんだろうと思うんですよね。
佐藤:安倍内閣の性格をどう見るか。安倍政権の前半と後半で、だいぶ違うんですよね。前半は、日米同盟を基調にした「自由と繁栄の弧」外交に全部還元されていた。それが後半には、習近平を国賓で呼ぼうとしたり、アメリカに対してもイージス・アショアを蹴っ飛ばしたり。前半と後半の安倍外交は同じ尺度では見られない。
これは私の造語ですが、政権の後半は「首相機関説」で説明できるんです。例えば、安倍さんは対ロ外交においては二島返還+αというように非常に柔軟です。一方、沖縄の辺野古に対しては非常に厳しい。コロナ禍で最初は所得が著しく減少した世帯30万円と言っていたのに、突如全国民に10万円となる。いろんな政策の整合性が取れない。これこそが安倍晋三という人が、小泉純一郎型のカリスマ的支配者ではないことを表しています。