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人生はみずからの手で切りひらける。そして、つらいことは手放せる。美容部員からコーセー初の女性取締役に抜擢され、85歳の現在も現役経営者として活躍し続ける伝説のヘア&メイクアップアーティスト・小林照子さんの著書『人生は、「手」で変わる』からの本連載。今回は、部下や後輩のミスが心配で仕事が任せられないというひとたちに、上司や先輩としてどう考えればいいかをお伝えします。
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「後進を育てていく」ということは、どんな職業の方でも経験するものです。一から仕事を教えて一人前に育て上げるまでには、先輩として気を揉むことばかり……という方も多いでしょう。でもいつまでも「この仕事は彼には無理だろう」「この仕事は彼女には荷が重いのではないか」と、大きな仕事をまかさないでいると、ひとは育ちません。
私は能力のあるひとは年齢に関係なく抜擢して、責任ある仕事をまかせるようにしています。能力があり、やる気がみなぎっているひとは、責任の重い仕事をまかされればまかされるほど、著しく成長するものです。
若いひとに仕事をまかせるとき、私はいつもこう声をかけます。
「あなたならできる。私はあなたのこと、心底信頼してるよ」そしてそのひとが最初のステップで成功したら、メールではなく、直接顔を見て口に出して褒めます。そうすれば本人にも自信がつきますから、次のステップが前回よりも難しいものになっても、さらに努力をしてくれるのです。「若いから」「キャリアがまだ浅いから」といった理由で何年も雑用をさせていては、もったいない。
私は独立以後3000人以上の後進を育て、美容や広告の業界に送り出してきました。私はとにかく現場主義を大切にしています。若いひとにはどんどん“仕事の現場”を経験してほしいので、もしかしたらこの子は現場では緊張してしまってうまく動けないかもしれないと思っても、自分の仕事に連れていきます。
「もうちょっと場慣れしてから」などと言って、いつまでも現場に入らせなかったら、一生“場慣れ”なんてできませんから。
私たちメイクアップアーティストは、女優やモデルの撮影のときは誰よりも早くスタジオに入ります。そしてメイクルームの鏡の前にたくさんの化粧品や道具類を並べ、すぐにメイクが始められるようにスタンバイします。
アシスタントとして現場に入るひとには、そのスタンバイから手伝ってもらいます。撮影の現場に入ったからには、メイクがスムーズに進むように動くことが求められます。自分で考えて行動する責任があるのです。